映画『カポーティ』
2006年12月号 連載 [IMAGE Review]
しめしあわせたかのようだった。落雷にも似た音。黒いマスクを被せられ、手を革ベルトで固定された囚人が落下する。処刑に立ち会ったカポーティは、びくっと肩をそびやかし、絞首索の先にぶら下がった死体もびくりと痙攣した。 それがクライマックスだ。こういう結末を私は密かにデウス・エクス・モルタ(死刑台仕掛けの神)と呼んでいる。思いつくだけでも、『ふくろうの河』『クルーシブル』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』……どれも「13階段の降臨」のシーンがあり、磔刑の秘蹟の影絵だからである。 ギロチンの舌をもつ神童作家が畢生のノンフィクション『冷血』を書けた秘密――そんなものはどこにもなかった。これはカポーティを描いた映画ではない。カポーティの毒、コトバの牢獄の映画である。 あの世から本人が弁護に立つかもしれない。「ここに書かれたものは真実に基づいているが、そのこと ………
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