2007年5月号 連載 [編集後記]
威勢のいい音楽とともに、宿場町に三船敏郎演ずる素浪人が、懐手に肩を揺すって現れる。黒澤明監督の『用心棒』はいつ見ても痛快な映画だ。西部劇さながら濛々と砂塵が舞い上がるこの宿場では、「清兵衛」と「丑寅」の二人のヤクザの親分が、用心棒を雇って跡目争いに血眼なのだ。素浪人は「高値で雇うほうに腕を貸す」と言って両方をけしかける。▼しかしこの素浪人の狙いは、毒をもって毒を制す――狂犬同士を咬み合わせ、血で血を洗う出入りで自滅させ、宿場から「悪」を一掃することなのだ。加東大介から羅生門網五郎、山茶花究から山田五十鈴まで、芸達者な面々が見せる「悪のアラベスク」を見るたび、カラッとした哄笑が聞こえるような気がする。市場の「見えざる手」とやらも、清濁を相打ちさせて均衡を回復させるという意味で、この哄笑に近いのかもしれない。▼だが、原理は常に例外を生む。教科書 ………
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