2008年3月号 連載 [硯の海 当世「言の葉」考 第23回]
小林秀雄は『中原中也の思ひ出』にこう書いている。「大学時代、初めて中原と会った当時、私は何もかも予感していた様な気がしてならぬ。(略)中原と会って間もなく、私は彼の情人に惚れ、三人の協力の下に(人間は憎み合ふ事によっても協力する)、奇怪な三角関係が出来上がり、やがて彼女と私は同棲した。この忌はしい出来事が、私と中原との間を目茶々々にした。言ふまでもなく、中原に関する思ひ出は、この処を中心としなければならないのだが、悔恨の穴は、あんまり深くて暗いので、私は告白といふ才能も思ひ出という創作も信ずる気にはなれない」小林はゆえにあまり中原について語ってはいない。二人の出会いは二人の人生を大きく変えたばかりではなく、おそらくは日本の現代文学をもかなり揺り動かしたに違いない。小林はこう続ける。「驚くほど筆まめだった中原も、この出来事に関しては何も書 ………
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