2008年7月号 連載 [隗より始めよ]
6月に入り、米通貨当局の複数の高官にとどまらずブッシュ大統領までが、相次いで「ドル安」に言及している。きわめて異例なことだ。これまでアメリカが採ってきた為替政策は、一言で言えば「慇懃な無視」(ビナイン・ネグレクト)、すなわち為替レートの形成は市場に任せるというものだった。そのように悠然と構えていられた背景には、対米黒字国が二つの「恐怖」によってドルを買い支えてきたという歴史がある。一つは、日本やアジア諸国などが抱く恐怖である。変動相場制では、黒字国の通貨は何もしないと切り上がる。通貨高になって輸出競争力を失うことを怖れ、黒字国はドルを買い支えてきた。もう一つの恐怖は、アメリカに防衛を大きく依存している中東の産油国が抱いているものである。ドルを買い支えないと、有事の際に防衛の手を緩められることを怖れて、アメリカの防衛費調達に応分の負担をし ………
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