創業者が実質経営する病院向け債権を、あのアスクレピオスに売り払った。特別背任の疑い。
2008年7月号 DEEP
またぞろ、介護業界で不祥事が起きている。
ジャスダックに上場するメデカジャパン。機能型介護サービス拠点「ケアセンター・そよ風」を全国的に展開する介護大手である。訪問介護をメーンに拡大したコムスンやニチイ学館などとは異なり、デイサービスなどの通所系サービスや住居系サービスに力点を置いてきた。2007年5月期の売上高で約320億円、営業利益は14億円という介護の雄。このメデカの創業者で会長の神成裕(かんなりゆたか)氏(57)に、特別背任の疑惑が浮上しているのだ。
メデカは昨年7月、簿価157億円の病院向け長期営業債権を53億円で一括売却した。売却先はバイオベンチャー、LTTバイオファーマの子会社、アスクレピオス。3月末に表面化した大手商社、丸紅をめぐる偽造保証書事件の主役である。
丸紅の偽造保証書で集められた米投資銀行リーマン・ブラザーズ証券をはじめ、多くの投資家の資金が闇に消えたこの事件、出資を募っていたのはアスクレピオスの社長、斎藤栄功氏である。
「157億円に上るメデカの債権の多くは病院向けの融資」と関係者は語る。経営不振の病院に対する融資を行っていたが、診療報酬の引き下げなどの影響もあり、回収不能の不良債権と化していた。病院向け債権の圧縮を迫る大株主の声に押し切られ、一括売却を決めたようだ。
もっとも、それだけなら不良債権のオフバランスに過ぎない。ただし、融資先病院の実質的な経営者が、神成氏だったらどうだろう。
メデカグループの関係図(次ページの図はその略図)を示した内部資料がある。メデカの関連会社や神成氏のファミリー企業などが書き込まれたこの資料。「支援先病院」と囲まれたところには複数の病院名が記されている。その数は十数社。「『三裕』など神成氏のファミリー企業を通して病院への融資を実行していた」と関係者は明かす。
また、支援先病院の出資状況が別に書かれたペーパーには興味深いことが記されている。「(出資社員の)実質名義は神成です」。出資社員には大勢の名が記載されていたが、何のことはない。すべて神成氏のダミーである。企業の株主に当たる出資社員を押さえることで、実質的に病院を経営してきたということだ。
アスクレピオスに売却した病院向け債権の中には、支援先病院や三裕への融資も当然含まれている。巧妙な目隠しが施されているが、メデカの会長、神成氏は自分の経営する病院に公開企業であるメデカから融資を実行し、その債権放棄によってメデカに損害を与えたことになる。いくら創業者だとはいえ、これは会社法960条で定める「取締役の特別背任罪」にあたるのではないか。
アスクレピオスとの“関係”にも不透明さが漂う。
メデカは、08年5月期に35億円の有価証券評価損を計上すると発表している。ファイティング・ブル・インベストメントが発行した社債の半分が償還されなかったためだ。ファイティング社はアスクレピオスの関連会社。リーマンのケースと同様、関係文書に丸紅の記名押印があるなど、偽造保証書事件の仕組みに酷似していたという。
ファイティング社が発行した約70億円の社債を購入したのは07年5月7日。157億円の債権売却を取締役会で決議したのは5月31日である。「ファイティング社の債権を買う理由はまったくない」とは先の関係者。しかも、社債購入については取締役会で一切、議論されていない。近すぎるタイミング。病院債権を購入した見返りではないのか。
1カ月後の6月末に起きた大株主の移動も不可解に映る。筆頭株主だった日本アジアホールディングズが「RFIJ」という企業に持ち株を売却したのだが、RFIJもアスクレピオスの関係会社である。05年8月に業務・資本提携を結んで以降、日本アジアホールディングズはメデカに対して経営改善を強く訴えていた。神成氏にとっては目の上のタンコブ。アスクレピオスの力を借りようと考えても不思議ではない。挙げ句の果て、12月には両社で業務提携を結んでいる。「疑うな」という方が無理というものだろう。
神成氏が仲間と埼玉臨床検査研究所を創業したのは1974年のこと。患者の血液や尿を分析する臨床検査を請け負ってきた。その後、1990年に店頭公開。93年には社会福祉法人「元気村」を設立している。介護保険導入前から民間企業として介護や福祉事業に力を入れてきたことは間違いない。
「お年寄りたちが豊かで安心して楽しく過ごせる長寿社会を実現するための旗振り役に、自分の人生のすべてを捧げたい」。かつて、神成氏は雑誌でこう語っていた。その思いに嘘偽りはないだろう。ただ、崇高な理念も一連の疑惑を目にすると、急速に色あせる。
アスクレピオスが破産手続きを申し立てた数日後、メデカは第三者割当増資を実施。ユニマットホールディングの傘下入りを決めた。社長の神成氏は5月20日、代表権のない会長に退き、飛島建設出身の小山康文氏(64)が社長に就任。今後はユニマット主導で再建が進められる。
07年4月、介護報酬の不正請求があったとして、東京都は介護大手のコムスン、ニチイ学館、ジャパンケアサービスの3社に業務改善を勧告した。6月に厚生労働省は最大手グッドウィル・グループ傘下のコムスンに対して、全事業所の新規指定と更新の不許可処分を決定。グッドウィルは介護事業から撤退を余儀なくされた。そして今回のメデカ。ユニマット創業者の高橋洋二氏は消費者金融出身で、渋谷・松濤のシエスパ爆発で名を轟かせた。この国にまともな介護事業者は育たないのか。