2008年10月号 連載 [手嶋龍一式INTELLIGENCE 第30回]
真夏の夜、一陣の嵐が吹き荒れ、トウキョウ・オブザーバーたちを慌てさせた。極東の大都市を拠点に東アジア情勢の行方を追っている情報のプロフェッショナルたちにとっても、福田退陣の急報は想定外の出来事だった。首相会見のテレビ中継が続いているうちから、筆者の携帯電話が鳴り始め、深夜までやまなかった。文化担当の大使館員、欧州の著名な大学の駐日代表、アメリカ系ヘッジファンドの駐在員、ロンドンで発行されている雑誌の東京特派員。彼らはこんな肩書きで活動しているのだが、変事には一瞬素顔を覗かせる。いつもは流暢な日本語を操る彼らも、思わず英語に切り替えていた。本国への緊急電の時間が差し迫っていたのだろう。福田康夫首相が麻生太郎幹事長に政権を譲るのは、いま少し先になる――。こんな東京発の政局情報を送っていたのだろう。彼らの口吻からは「してやられた」という苛立ちが ………
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