「凛とした日本人」への渇望
2008年11月号 連載 [ひとつの人生]
義によって父親が匿ったお尋ね者の身柄を、報償に目がくらんだ息子が警察に売り渡してしまう。父親は信義を裏切ったその息子をやがて射殺する――。メリメの短編小説『マテオ・ファルコーネ』を、小島直記は好きな文学作品の筆頭にあげている。志操と信義を貫く男は、この作家の終生の主題であり、凛とした生き方は同時に自らの人生に課した流儀でもあった。俳句革新の志を滾(たぎ)らせながら若い命を閉じた正岡子規、「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門、悲運の宰相・石橋湛山――。日本の近代を導いた経済人や政治家、文人らの生き方を通して「伝記文学」という領域を切り開いた小島が好んで描いた人物の一例である。ここでは己の志を貫くなかで「公」という価値へ向けたノブレス・オブリージュ(高貴の義務)を自らに課して歩む、若き日本の指導者像が浮き彫りにされる。そのかたわら、出世のために時 ………
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