2008年11月号 POLITICS [ポリティクス・インサイド]
総選挙を控え、旗色の悪い自民党公認候補の「宗教団体詣で」が目立っている。かつての支援教団・霊友会が選挙から手を引き、立正佼成会は民主党の応援に回っている。代わって浮上してきたのが、政界進出を目論む幸福の科学(教祖=大川隆法・総裁)だ。昨年の参院選で当選した、自民党の丸川珠代氏の選挙応援を手始めに、次期衆院選では信者の擁立に動いている。
86年に大川氏が創始した幸福の科学は現在、全国に27の「精舎(しょうじゃ)」と呼ばれる礼拝施設を建設し、300余の支部を持つ。教団職員数は1千人を超え、信者数は推定100万人程度と見られるが、非公表のため定かではない。その教団内で今、「変事」が起きている。
88年に大川氏の妻となり、「総裁補佐」「副総裁」として教団を指導してきた大川きょう子夫人が突如、すべての役職を退いたからだ。同時に、教団のホームページから、夫人の経歴や業績を紹介するコーナーが削除され、幸福の科学出版から出版されていた夫人の著作もすべて撤去された。さらに、教団職員から信者に対して「『先生』は大川先生ただ一人。今日からきょう子氏を『先生』と呼ぶ必要はない」とのお達しもあったという。
夫人は「文殊菩薩」「ナイチンゲール」の生まれ代わりとして崇められ、女性信者組織「アフロディーテ会」会長を務めてきただけに、信者の間に動揺が走ったとしても不思議ではない。
関係者によれば、大川氏は8月末に千葉県内の支部で行った説法の中で、夫人を「勇退」させる理由を、次のように説明したという。
「妻との間で布教方針をめぐる対立があり教団内に混乱を招いている……、私は布教活動に命を投げ打つ決意だが、妻はそれに反対している……、世界布教を実現するためには信仰をエル・カンターレ(「大川氏自身の意識体」とされる)に一本化する必要がある……」
この説法を受けて、教団のホームページだけでなく、布教施設からもきょう子氏のすべての足跡が「消去」されたという。夫人の出身地である秋田県は、教団の「準聖地」(「聖地」は大川氏が生まれた徳島県)。そこには田沢湖正心館のほか文殊館が建ち、文殊像やナイチンゲール像があったが、それらもみな撤去された。
大川氏と夫人の間で、どのような協議がなされたかは不明だが、教団の「女神」として大川氏に次ぐ信仰の対象だった夫人は「(勇退と同時に)一信者の扱いになった」(教団関係者)という。「文殊菩薩」や「ナイチンゲール」の生まれ変わりが、ある日突然、一信者に降格とは理解し難いが、「大川教祖の決定は絶対」ということのようだ。
きょう子氏は65年生まれ。東大文学部在学中に入会し、卒業と同時に大川氏と結婚、5人の子宝に恵まれた。最近では夫人単独の講演を行い、著作物も増えていた。大川氏に次ぐ権限を握り、教団職員の人事などにも影響力を及ぼしていたようだ。「先生は大川先生ただ一人」というお達しは、教団組織に大川氏と夫人という「二つのヘッドはいらない」ことを示している。それにしても、「女神」から信者に降格された夫人は、今後どのように教団にかかわっていくのか……。新興宗教に接近する立候補者は、教団の内情にも目を配るべきだろう。