新生銀行襲う中間決算「危機」

筆頭株主のJCフラワーズ社がサブプライム問題で大やけど。売却先探しに躍起だ。

2008年11月号 BUSINESS

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新生銀行がダッチロールをしている。9月22日、9月期中間決算が280億円の黒字予想から150億円の連結最終赤字に転落することを発表した。米リーマン・ブラザースの破綻により、同日本法人向けの融資や社債が約380億円焦げ付いた。3月期決算も620億円の連結最終利益が120億円に下がる見通しだ。公的資金を受けている新生銀は通期利益予想が、経営健全化計画を3割以上下回ると、金融庁から行政処分を受ける。

さらに、10月初めには「泣きっ面にハチ」の事態に見舞われた。筆頭株主である米投資会社のJCフラワーズ社が、ドイツの不動産金融銀行、ヒポ・レアルエステートへの投資に失敗し、巨額の損失を出したのだ。今年5月、フラワーズ社が率いるファンドが17億7千万ドルを投じて、ヒポの株式を約25%取得した。ところが金融不安が欧州に波及し、ドイツ政府がヒポに救済措置を講じたため、株価が大暴落。フラワーズ社の取得株式の評価額は約2億5千ドルに激減した。「日本円に換算した約2千億円の投資額の80%以上が消えており、損失は1600億円を超えるだろう」(米系投資銀行筋)。

どこまで損出が膨らむか

さらに深刻なのは、フラワーズ社が組成したファンドに、新生銀も投資していること。「投資額は非公表」(新生銀)というが、その持ち分にも損失が発生している。この先、どれだけ損失が膨らむかわからない。

しかも、この投資行為は問題含みだ。「子会社銀行から親会社への融資や出資を禁じた、銀行法の規制(機関銀行化)に触れかねない」(メガバンク役員)。フラワーズ社は新生の32%強の株式を保有するだけでなく、同社会長のクリストファー・フラワーズ氏は社外取締役まで務めている。

金融庁関係者は「契約内容などをチェックする必要がある」と慎重な言い回しながら、興味津々の表情を見せる。新生銀関係者は「ヒポへの投資案件は機関銀行化の恐れがあるため、ファンドとは別に投資することを考えたが、結局、ファンドに投資する形になった。フラワーズ社側が、その事実をあらかじめ公表しているので問題はない」と言う。つまり機関銀行化を巧みに回避する契約内容になっているというのだが、違反スレスレの行為ではないか。

新生銀の職場には今、経費削減の寒風が吹いている。「出張旅費のカットからパソコンなどの通信費、資料のコピー代まで切り詰めよと、ポルテ社長からお達しメールがきている。『カラーコピー1枚にいくらかかる』とか、とにかく細かい……」と、若手行員は漏らす。

新生銀では10%を占める外国人社員が格上の外資系銀行などに比べて高給を得ているといわれ、その一方で日本人社員には「一円も無駄にするな」と厳命が下っているのだ。が、それも無理はない。「収益見通しがガタガタ。中間決算は赤字になるかもしれないと、行内でも囁かれている」(新生銀関係者)。

新生銀は今春、消費者金融会社、レイクの買収に5800億円の巨費を投じたが、その収益効果が表れるのは下期以降である。果たして、どれほどの収益向上につながるのか。「逆のれん代の発生による会計上の利益嵩上げが唯一のプラス材料」(証券アナリスト)という辛辣な見方もある。

本業の銀行業務もさっぱりだ。ポルテ社長が「日本のフロンティア」と力瘤を入れたリテールバンキングは、ATM利用手数料の無料サービスを大幅に後退させて人気がなくなった。将来の糧にするはずの住宅ローンも「当初計画の200億円の枠を最近100億円に引き下げた」(先の新生銀関係者)というから、看板倒れもいいところだ。加えて、稼ぎ頭だった不動産や消費者金融債権の証券化も、サブプライム問題の影響で市場がマヒし、開店休業に陥っている。文字通り八方塞がりなのだ。

本命は中国建設銀行?

今、日米の金融筋で取り沙汰されているのが、新生銀の身売り話である。「大株主のフラワーズ氏が新生銀に見切りをつけたとの噂が、ウオール街で流れている」と米系投資銀行関係者は言う。

今春、八城政基氏が新生銀の取締役会長へ復帰したことが、こうした風評に拍車をかけた。新生銀の初代会長を務めた八城氏は、フラワーズ氏と並ぶ新生銀誕生の立役者。すでに第一線を退いた八城氏の会長復帰は、年齢(79歳)から考えても異例中の異例である。「フラワーズ氏が八城氏に寄せる信頼は厚く、二人三脚で新生銀のエグジッド(出口)を狙った人事」(米系投資銀行筋)との見方がもっぱらだ。

とりわけ日米金融筋が注目するのは八城氏の華人人脈だ。八城氏は長く香港に住み、現在は北京に在住という。中国国営4大銀行の一つ、中国建設銀行の顧問などを務め、北京政府と中国金融界に太いパイプを持っている。「中国建設銀行が売却先なら不動産金融が得意の新生と相性がよい」(日本のメガバンク幹部)との声もあり、八城氏ルートの中国建設銀行が本命視されている。

もっとも、中国金融界に詳しい人物は「米国投資銀行に出資した国営ファンドに巨額の損失が発生したことで、中国政府は海外企業への投資に及び腰になっている」と言う。確かに中国政府は現在、国営ファンドであるCICによる海外投資をストップさせている。

一方、こんな情報も流れている。「ニューヨークでフラワーズ氏がサーベラス社に新生銀の売却を持ちかけた……」

言うまでもなく、サーベラス社は破綻した旧日債銀を買い取り、あおぞら銀行を誕生させた米系投資ファンドであり、あおぞら銀は現在もその傘下にある。仮に、サーベラス社がフラワーズ社から新生銀株を譲り受ければ新生銀とあおぞら銀の合併構想が浮上する。最近、新生銀の元専務で投資銀行部門のヘッドを務めたブライアン・プリンス氏があおぞら銀の経営に加わった。「次期社長含み」(サーベラス社関係者)と目され、この人事もサーベラス社による新生銀買収の布石との見方につながっている。

二つの米系投資ファンドにとって、新生銀とあおぞら銀はともに「出口の見つからないお荷物」だ。そこで両行を合併させて支店網を拡大、本部部門を大リストラするプランが内々に協議された節がある。「弱者合併で意味がない」と邦銀関係者は口を揃えるが、出口に苦慮する投資ファンドが考えそうな苦肉の策ではある。

とはいえ、世界の金融不安が高まるなかで、こんな身売り話が容易にまとまるとも思えない。より気がかりなのは新生銀の経営状況である。実際、 前出の新生銀関係者は「内々に希望退職を募っている」と明かす。国内大手銀行で極端な経費削減に走り、希望退職まで募っているのは新生銀だけだろう。

98年に破綻した新生銀の前身、日本長期信用銀行に、日本政府は約8兆円の公的資金を投じ、今なお新生銀の大株主(約20%保有)である。 ポルテ社長を筆頭にお世辞にも一流とは言えない外国人投資銀行マンが我が世の春を謳歌した新生銀に、夕闇が迫る。売却先が現れず漂流し続ければ、再び「旧長銀の二の舞」批判が起きかねない。11月半ばの惨憺たる中間決算報告が、新生銀のそこにある「危機」を物語るだろう。

   

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