2008年12月号 連載 [手嶋龍一式INTELLIGENCE 第32回]
私の手元に一枚の写真がある。星条旗を背に、丸眼鏡をかけた黒人の掃除女が、右手には箒、左手にモップを持ってすっくと立っている。額に刻みつけられた幾重もの皺(しわ)が苛烈だった彼女の人生を物語る。キャプションには「アメリカン・ゴシック」とある。黒人写真家ゴードン・パークスがアメリカ社会の素顔を抉(えぐ)った記念碑的な作品だ。ワシントンDCのコーコラン美術館で初めて「掃除女」に出会ったときの印象は鮮烈だった。その瞳の奥深くには崇高な光がほとばしり、神の存在すら疑わせる悲惨な現実に耐えた人生がずしりと伝わってきた。早速、写真を買い求め、その裏にこう書きつけた。「黒人隔離政策の撤廃を求めたブラウン判決を書いた最高裁判事をもたじろがせる威厳に満ちている」バラク・オバマの勝利演説を聴いたとき、真っ先に「アメリカン・ゴシック」を思い浮かべた。次期大統領が ………
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