働かない専務、常務両理事に不満が噴出。広瀬会長の勇退と同時に若返りを図れ。
2008年12月号 BUSINESS
2011年7月にテレビ完全デジタル化とアナログ波の停波を実現できるか。行政だけではなく、視聴者の目も厳しくなる一方の取材・報道倫理面で信頼回復の道筋をつけられるか――。課題が山積する中、第56回民間放送全国大会が10月28日、東京・有楽町の国際フォーラムで開催された。大会には、日本民間放送連盟(民放連)加盟の201社の首脳、来賓など約1100人が出席。麻生太郎首相の祝辞が読まれ、鳩山邦夫総務相や江田五月参院議長らが駆けつけ、民放パワーを誇示する大会となった。
民放連会長の広瀬道貞(テレビ朝日相談役)の挨拶は危機感あふれるものだった。米国発金融危機に端を発した世界経済の変調、インターネットの脅威にさらされる伝統的な四大媒体の苦境に触れ、「07年度決算では、3大都市圏を除いた112のテレビ局のうち、ほぼ4分の1の30局が赤字に陥り」「今年度はさらに悪化。キー5局の通期の利益見通しは30~50%のマイナス」と経営環境の厳しさを強調した。これまで局と二人三脚で繋がってきた制作会社(プロダクション)の疲弊にも言及し「苦しい時こそ連帯を」と訴えた。
実は民放大会の会長挨拶は、民放連事務局の各部門が作成した素案を会長室で取りまとめ、最後に事務局のトップである専務理事の玉川寿夫(68)と常務理事兼事務局長の工藤俊一郎(64)が筆を入れた文案を読む習わしだった。ところが今年は違った。広瀬は自らの出身母体であるテレ朝の秘書らが書いた挨拶文を読み上げたのだ。つまり民放連事務局案は採用されなかった。民放連関係者は、「会長と事務局幹部に危機感のズレがあるのではないか。それにしても情けない」と嘆く。
事務局幹部のお粗末さは全国大会前日にも露呈した。27日午前、東京・紀尾井町にある民放連会議室では、「発掘!あるある大事典」で捏造問題を起こし、会員活動停止処分を受けていた関西テレビ放送(KTV)の復帰問題が議論されていた。
まず放送倫理問題を協議する「緊急対策委員会」に、関西地区社長会が処分解除を了承したことが報告され、同委員会も了承。これに続いて開かれた「会員協議会」で、玉川専務理事が「KTVの活動停止処分の解除」を提案。これが了承されるや「それでは福井澄郎社長から挨拶を」と、同氏を協議会に迎え入れた。ある民放関係者は首をひねる。
「民放連の定款によれば、会員の処分は総会に次ぐ理事会の決定事項になっている。会員協議会に先議し、福井氏に挨拶をさせたのはおかしい。会長と事務方のコミュニケーションはどうなっているのか……」
民放連の役員は会長と8人の副会長、約30人の理事で構成される。事務局トップの専務理事とナンバー2の常務理事のみ生え抜きの常勤職員で、残りの役員はすべて放送各社の現役社長が無給で務めている。
ところがこの、専務、常務両理事の評判が芳しくない。ある民放連役員は「放送各社は高い会費を払わされるばかり。事務局幹部は高給に胡坐をかいている」と酷評する。
専務理事の玉川は慶大経済卒。79年6月、衣料メーカーから中途で民放連事務局入りした。当時の事務局国際担当部長の紹介だったという。業務部長、会長室長を経て、97年4月に事務局長に就任。04年4月に専務理事に上り詰めた。
複数の民放連関係者によれば、玉川は事務局育ちの内向き官僚で、キャリアは長いが永田町や霞が関に食い込んでいないため、官僚からの情報収集や有力政治家への根回しは苦手という。NHKや家電メーカー幹部とのパイプも太くなく、時に国会に呼ばれて答弁に立つこともあるのだが、元専務理事の酒井昭(故人)のように相手を煙に巻く芸当ができるわけではない。言葉を換えれば「歴代会長に取り入って年功で出世した人物」(民放連関係者)なのだ。
常務理事の工藤も同じ穴のムジナだ。日本電子工学院放送技術部を卒業し、65年4月に民放連に入社。勤続年数は玉川を上回る。下積みの技術部門が長く、92年4月に総務部長となり、04年4月に玉川の後任の事務局長に就任した。
「学歴コンプレックスゆえか、ちょっとしたミスでネチネチやるんですよ。『会見に来る記者が少ない』と会長室スタッフを怒鳴る一方で、『記者に変な質問をされたら困る』と心配する。決断も的確な指示も下せない」(別の民放連関係者)。口癖は「早く」「短く」だそうだ。「早く会議用の資料を作れ」「会長、各委員長の挨拶用原稿は短く」という具合で、数年前から大学院の社会人コースに通い出したため退社が早いようだ。民放連の常務理事とは、その程度のものなのか。
3年ほど前、事務局にヘビークレーマーが乗り込んで来た時、工藤が応接室で対応しようとしたが、「怒鳴り散らされトイレに逃げ込んだ」(前出の事務局関係者)というエピソードが残る。総務省の通信・放送行政関係者から「民放連の部長は役所の課長に接触してくるのに、工藤さんは課長補佐クラスを相手にしている。よほど自信がないのかなぁ」と同情される頼りなさだ。
放送業界の環境激変に伴い、民放連のお気楽な仕事ぶりに不満を抱く会員が増え始めた。民放連副会長経験者は「民放連事務局は放送各社のためにもっと汗をかくべきだ。専務、常務両理事はお飾りではない。とりわけ政治家や行政当局と交渉に臨む会長を補佐する役割は重い。事務局トップにどんな人材を据えるか、真剣に考えるべきだ」という。
民放連の収入の大半は放送各社の会費である。前年度予算で民放連は約17億4千万円の会費収入を見込んでいたが、会員各社の収益の低下で実際には15億7千万円しか集まらなかった。その一方で、68歳の玉川専務理事の年収は約3千万円。就任後「体調を崩して年の半分程度しか出勤できなかった」(民放連関係者)ときに勇退が取り沙汰されたが、今なお続投している。また、64歳の工藤常務理事の年収も2千数百万円。彼が現在、大学院に熱心に通っていることは先述した。こんな体たらくでは民放連の職員の士気が上がるわけがない。因みにNHKでも公開している幹部の報酬は非公開である。
2代前の氏家齊一郎・民放連会長(日本テレビ会長)が、読売新聞政治部出身の北原健児(現福島中央テレビ社長)を専務理事に据えたが、事務局内外からの反発を受けて短命に終わった。総務省からの天下りは論外だが、今度こそ有能な外部人材の抜擢を検討すべきだろう。
今年の仕事始めに、玉川は事務局スタッフを前に「自分としては今年度末(3月末)で退任しようと考えていたが、会長に相談したところ『もう1年、オレとやってくれ』と言われた」と、自らの続投理由を語った。74歳の広瀬にとって年齢が近くイエスマンの玉川はやりやすかったようだ。その広瀬自身も来年3月に任期途中で退任する腹と囁かれ、後任にTBS社長の井上弘とテレビ東京会長の菅谷定彦の名前が浮上している。
広瀬の勇退と同時に専務、常務両理事を退かせ、事務局トップに若手を抜擢し、淀んだ民放連に活を入れるべきだろう。(敬称略)