2009年2月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]
日本経済新聞社の喜多恒雄社長が、1月9日に開催された全社部長会で、電子新聞の創刊時期を「2010年春以降を視野に」と初めて示した。「デジタル革命の加速、若者の活字離れ、少子高齢化を考慮すると紙の新聞に依存する現体制ではいずれ限界が来る」と勝負に出る方針を打ち出した。
電子新聞の柱は三つ。
一つ目は紙の新聞よりも早く読めるようにする「きょうの日経新聞」の創刊。朝刊なら高齢者が目覚める午前5時頃、夕刊は昼食後の午後2時すぎには手元のパソコン、携帯電話、デジタルテレビなどで閲覧可能にする。
二つ目は重要なニュースを随時、詳報する「ニュースX」の立ち上げ。これには編集委員など専門記者の詳細な解説を付ける。
三つ目は読者が読みたいテーマをあらかじめ指定すれば、関連記事をシステムが自動的に選び、読者オリジナルの新聞が作れる「マイ日経」の配信。現在の紙の新聞は全読者に同じ情報を届ける「お仕着せ」だが、これは読者の好みに合わせて提供するカスタマイズ(特注)版である。さらに現在、日経のデータベース「日経テレコン21」に蓄積、有料提供している過去記事の検索をはじめ、日銀総裁、首相、主要企業社長など重要な記者会見の模様を動画配信することも検討中だ。
顧客管理は販売店に任せず、日経本社が直接担当。「BtoC」(消費者向け)ビジネスに初めて本格的に参入することになる。新聞業界では前例のない取り組みだ。
課題は販売・広告部門だ。購読料や電子新聞の広告料金をどう設定し、誰が電子新聞を売るのか。販売局は紙の新聞を売るために130年かけて築き上げた組織であり、電子新聞を売れば売るほど紙の読者が減るジレンマに陥る。このため、4月から東京本社の販売局を二つに分け、第1販売局が紙を、第2販売局が電子新聞を売る体制に切り替える。第2販売局はセミナーなどを通じて電子新聞を学生やビジネスマンなど一般消費者に売り込む方針だ。
広告局も「クロスメディア営業局」に衣替え。電通、博報堂の新聞局に依存した営業スタイルのままでは紙の広告市場が縮小する中で沈んでいく。このため、クロスメディアではインターネット広告やイベント、出版、放送など日経グループ内のさまざまなメディアと組み合わせて売るソリューション(問題解決)型営業を展開する。紙に比べて価格が10分の1から5分の1と安い電子新聞の広告収入を補う作戦だ。
世界にはまだ電子新聞の成功モデルはない。日経は将来の生き残りと成長をかけて、その確立に挑戦する。