ユニクロ『ヒートテック』
2009年3月号 連載 [PRODUCT Review]
この冬、全国のユニクロで売り切れが続出したインナーウェアの「ヒートテック」。体表から蒸発する水分で発熱する特殊な素材を使ったこの商品は、「温かさ」を売りに今季2800万枚を完売した。
小売業界が不況に苦しむ中で、ただ1社気を吐くユニクロだが、逆風下に絶好調の決算を叩き出した原動力がこのヒット商品だったことには皮肉を感じざるを得ない。
ここ数年のユニクロは、フリースなどの定番商品が世に溢れた結果、成長の鈍化に悩まされてきた。再成長のためには次々に新しい商品を提供し、「ユニクロに行けば何かある」と顧客に思わせる必要があった。言い換えれば、ファッションブランドへの転換である。実際、著名デザイナーと組んだ商品開発や仏衣料ブランドの買収など、涙ぐましい努力を続けてきた。ところが、ユニクロを再浮上させたのは結局「安さ」だった。
ヒートテックはなぜこれほど売れたのか――。機能が優れているから、という答えは本質を見誤っている。ヒートテックはユニクロと東レが共同開発した素材だが、発熱素材を使ったものとしてはミズノの「ブレスサーモ」など機能の似た商品は他にもある。しかし価格はユニクロの数倍。機能に対する価格の圧倒的な安さこそがこの商品の競争力なのだ。
“デフレの申し子”健在なりしか。ユニクロの強い時代が、またやって来た。