地裁判決で追い詰められた西武グループ

2009年5月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]

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西武グループの中核会社だったコクド(06年にプリンスホテルに吸収合併)の株式所有権をめぐって堤義明・元コクド会長を相手取り、実弟の堤猶二・東京テアトル会長、異母兄の堤清二・セゾン文化財団理事長ら親族が争った裁判で、東京地裁は3月30日、猶二ら親族の持ち分を一部認めた。

山田俊雄裁判長は西武グループ創業者で兄弟の父である康次郎(64年死去)の生前、死後を通じて「借用名義株が存在し、管理されていたものであること」(すなわち組織的な名義偽装)を認定。康次郎の死亡時に第三者名義だったコクド株約126万株のうち少なくとも100万株については名義偽装があり、偽装していない株も含め康次郎は約123万株(発行済み株式の約82%)を保有していたとの判決を下した。これは現経営陣による「コクド株に名義偽装はなく(西武ホールディングス設立など)一連のグループ再編には正当性がある」との主張を根底から覆すものである。

現経営陣を率いるのは、メーンバンクのみずほコーポレート銀行が債権回収のために送り込んだ元副頭取の後藤高志・現西武HD社長。かつて堤義明が君臨した「西武王国」の玉座は、後藤に奪われた感がある。

後藤の権力基盤が確立したのは、05年末にコクドが開いた臨時株主総会。当時、証券取引法違反で有罪判決を受けた直後の義明のほか、名義貸しをしていた元役員らの支持を強引に取り付けて開催したものだ。この総会で、コクドの解体とプリンスホテルへの吸収合併、新たな中核会社として西武HDの設立、後藤のHD社長就任、サーベラスの資本参加(増資引き受けで30%の筆頭株主に)などが次々に決まった。

だが、今回の地裁判決でコクド株の名義偽装が認定されたことにより、この総会そのものが無効とされる可能性が一段と高まった。

05年当時、猶二ら親族が総会開催差し止めの仮処分を東京地裁に申し立てた際、裁判長は差し止め自体は却下したものの、株の名義偽装については認めた経緯がある。また06年には東京国税局が税務調査でコクド株の名義偽装を暴き、西武鉄道などグループ会社を堤一族の同族会社と認定して追徴課税した。こうした再三の司法や税務当局の判断にもかかわらず、「ニセ株主」による総会決議を盾にグループ解体・再編を進めた後藤ら現経営陣への批判が強まるのは間違いない。

今回の判決について、新聞各紙はコクド株の大半が義明の所有であることが認められた点に着目したが、これは「取得から20年以上が経過していることによる時効」が理由。裁判では猶二ら親族が「無効」と主張している康次郎の遺産相続については判断を下していない。「コクド株の名義偽装が認定されたことで、誤った財産評価に基づいた康次郎の遺産相続の有効性も否定される可能性が膨らんだ」と親族側は勢いづいている。

今後、注目されるのは西武HDの筆頭株主であるサーベラスの出方。米国発の金融危機でクライスラーやGM系金融会社GMACの大株主であるサーベラスの資金繰りが悪化しており、注ぎ込んだ約1400億円が塩漬けになっている西武HDについて、サーベラス幹部は苛立ちを隠さない。

西武HD発足前に後藤は「08年度中の株式再上場」を公言していたが、傘下のプリンスホテルの業績悪化などで早々と断念。その後も赤字体質の改善は進まず再上場のメドは立っていない。サーベラスは保有株式の売却を検討しているが、訴訟沙汰となり、今回の地裁判決も含め資産評価のうえで傷のある西武HD株を高値で買い取る投資家が現れるとは考えにくい。

業を煮やしたサーベラスは後藤体制の刷新を視野に入れ始めたようだが、現経営陣は最近、グランドプリンスホテル赤坂の再開発をサーベラスとの共同プロジェクトにする「懐柔策」を持ちかけているとの噂が広がっている。

また、京浜急行電鉄が東京・品川のホテルパシフィック東京を10年9月に閉鎖すると発表したことを受け、「隣接するグランドプリンスホテル高輪の一角を西武が切り売りしてホテルパシフィックと共同開発する構想があり、そこへサーベラスを噛ませる」との憶測も飛び交っている。

先の東京地裁判決の翌日、企業年金連合会や三菱UFJ信託銀行など16法人が西武鉄道株の名義偽装事件による株価下落で被った損害の賠償を求めた訴訟で、同じく東京地裁がコクド(現プリンスホテル)や堤義明に約237億円の支払いを命じた。

アイスホッケーの廃部や苗場プリンスホテルの営業期間短縮など、西武グループには業績悪化を予想させる話題ばかり。不動産切り売りで借金返済を進め、出身母体を含めた銀行団の支持をつなぎ止めてきた後藤体制は進退窮まりつつある。(敬称略)

   

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