2009年10月号 BUSINESS [AHEAD]
来年10月の合併を発表した新生銀行とあおぞら銀行の道のりは険しい。「合併がご破算になるかもしれない」と囁かれている。
両行が合併を公表したのは7月1日。新銀行社長に就任予定の池田憲人・足利銀行前頭取は、記者会見で「私は(幕末の軍艦)『咸臨丸』の船長になる」と大見得を切った。
両行の前身である日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が経営破綻し、国有化されたのは98年。その後、外資系ファンドに買収され、外国人バンカーの舵取りで国内不動産融資や証券化商品、海外リスク資産にのめり込み、昨秋のリーマン・ショックで大火傷を負った。両行の09年3月期の最終赤字は計3800億円に及ぶ。池田氏が「米国に渡った咸臨丸を日本に戻す」と発言したのは、新銀行の経営権を不埒な外国人バンカーから取り戻し、国内回帰する意気込みにほかならなかった。
ところが、3カ月も経たないうちに、新生銀行の「お家の事情」で先行きが危うくなってきた。事情を知る関係者は「新生銀行の筆頭株主である米系ファンド、J・C・フラワーズのオーナーで、同行取締役を務めるJ・クリストファー・フラワーズ氏と、同行会長兼社長である八城政基氏の関係が険悪な状態になっている。もともとフラワーズ氏は合併に消極的で、いまでは2人は口もきかない」と言う。
新生銀行の誕生当時から「二人三脚」で再建に関与してきた両者の「不仲」が事実とすれば、容易ならぬことだ。新生銀行の実質的な支配者であるフラワーズ氏は最近、新たな社長候補として、ある外国人を日本に招いたとの噂もある。
当の八城氏は合併交渉の場で、来年10月の合併予定日を4月に早めると言い出し、あおぞら銀行側を当惑させていると言う。ある銀行関係者は、八城氏の真意について「来年10月まで待っていると、さらに不良債権のロス額が膨らみ、自己資本比率が8%を割り込みかねないからだ」と解説、新生銀行の経営内容の厳しさを指摘する。
万一、合併前に自己資本比率が急落したら、新生銀行は単独で公的資金を申請するはめになる。ところが、新政権の座に就いた民主党は「破綻前の公的資金注入」を糾弾してきた経緯があり、新生銀行への公的資金投入に否定的と見られる。このため八城氏は、合併を今年度決算発表前の来年4月に前倒しすることを主張しているようだが、あおぞら銀行と、その親会社である米系ファンドのサーべラスは足元を見透かし、「提案」に乗る気配はない。
そこで、新生銀行は9月9日に突如、100億円の優先出資証券を発行すると発表したが、この程度の資本増強で事足りるはずがない。
当初、金融庁は両行の合併をバックアップする姿勢を見せ、金融機能強化法による公的資金の投入もほのめかしていた。ところが、最近のスタンスは、「我関せず」に変わったようだ。金融庁が「はなしのわかる人物」として高く評価してきた八城氏の立場が微妙なうえ、民主党政権の方針を見極めなければ、公的資金の投入などの大きな判断を下せない政治状況になったからだ。
さらに、新社長に就任予定の池田氏と八城氏の関係もギクシャクしている。「あおぞら銀行側に立った言動を続ける池田氏を八城氏が警戒している」(関係筋)ためだ。
池田氏が新銀行の舵取りについて強気の発言をしたのは、社長就任を引き受ける際、「外国人経営陣の排除」と「池田氏への権限集中」について、金融庁が後ろ盾になるとの約束を取り付けたからとされる。
実際、その後も池田氏はアプラスなど新生銀行の子会社群の経営実態を把握するため、ヒアリングを行うなど精力的に動いている。ところが、金融庁が合併問題に距離を置き始めるにしたがい、良好な関係だった「八城氏とも呼吸が合わなくなった」(新生銀行関係者)。
一方、新生銀行の苦しい内情が表面化すれば、合併交渉が有利に運べると読むあおぞら銀行とサーベラスは高みの見物を決め込んでいる。
初めて外洋に乗り出した咸臨丸の船長、勝海舟は酷い船酔いで舵を取るどころではなかったという。池田氏が咸臨丸にたとえた新銀行は、外洋に出る前に座礁しかねない。