「頂上」を去った俳人の「麓」

『評伝 頂上の石鼎』

2009年12月号 連載 [BOOK Review]

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俳句ブームだといわれて久しいが、俳句がどれほど一般に親しまれているかとなると疑問である。例えば本書のタイトル『頂上の石鼎』。俳句に関心の薄い読者は、まず「石鼎」で首をひねるはずだ。山のてっぺんに据えてある石の鼎? 「評伝」の文字がなければ、古代史ロマンを想像しかねない。原石鼎(せきてい)、大正、昭和期の俳人と知っても、代表句の一つも思い出すまい。漱石以降多くの作家の名は知れ渡っても、俳人は子規一人、あとはせいぜい虚子に山頭火程度しか一般には知られていない。虚子門下で天賦の才に恵まれた随一の俳人石鼎も、世に忘れられるマイナーな世界である。頂上や殊に野菊の吹かれ居り花影婆娑(ばさ)と 踏むべくありぬ岨(そば)の月淋しさに また銅鑼打つや鹿火屋(かびや)守家業の医師を目指しながら俳句に熱中、挫折した石鼎は大正元年、次兄の医業を手伝うため吉野の ………

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