2010年1月号 GLOBAL
9月、輸入車では初めてとなるハイブリッドカーがメルセデス・ベンツから発売された。翌月には同じドイツのBMWが、やはりハイブリッドカーの予約受け付けを始めた。ともに1千万円を超える大型高級車であり、レクサスの最上級車LS600hがライバルになる。
トヨタ・プリウスが登場して12年目を迎えた日本にとって、ベンツ、BMWの「参戦」は「いまさら」の感がある。それはドイツ勢のエコカー戦略の誤算の結果にほかならないからだ。
プリウスがデビューした頃、独メーカーはハイブリッドカーを「つなぎの技術」とみなし、冷淡な視線を送っていた。彼らがエコカーの本命と位置づけていたのは燃料電池自動車である。ヨーロッパ車が元来得意としてきたディーゼル車から燃料電池車に移行する戦略を掲げ、ハイブリッドカー主体の日本メーカーと対決する姿勢を見せていた。
しかし燃料電池は、電極触媒材料に白金を必要とする関係で、コストダウンの課題を克服できないでいる。メルセデスはコンパクトカーのAクラスをベースとした燃料電池車を2002年に発表したものの、いまだに市販を果たしていない。現在ホンダがリース販売している燃料電池車は、3年契約で月額80万円という超高価格になっている。
ヨーロッパではその間にも環境対策についての議論が進み、自動車メーカーごとのCO2排出量を規制する決定がなされた。2015年までに1㎞走行あたり130g以下を目指すという。
昨年のEFTA(欧州交通環境連盟)統計によれば、小型車を得意とするイタリアのフィアットは138g、フランスのプジョーとシトロエンは139g、ルノーは143gと目標値に近いのに対し、独フォルクスワーゲン(VW)は159g、BMWは154g、メルセデスは175gに甘んじている。
各社ともヨーロッパでディーゼル車を多数販売しているが、数値を好転させることはできない。しかもディーゼル車は、排出ガス規制の厳格化に伴いコストが上昇し、ハイブリッドカーとの価格差が縮まりつつある。電気自動車(EV)という選択肢も、航続距離の伸びが見込めない現状では小型車にしか使えない。
そこで彼らは、EVは小型車、ディーゼル車は中型車に担当させ、大型車にハイブリッドカーを導入することで、規制をクリアしようと考えた。開発コストが嵩んでも、大型車であれば価格で吸収できるという目論見もあった。
開発期間を短縮し、費用を削減すべく、メルセデスとBMWはアメリカGMと共同開発するという手段を選び、05年に提携を結ぶ。その結果誕生したモデルが今回発表された2車種である。一方、VWはグループ内のアウディやポルシェとともに開発を進めている。こちらは10年以降市販化の予定という。
9月のフランクフルト・モーターショーでは、一連の開発プロジェクトから生まれた新型車や試作車が大量に展示されていた。ディーゼル車一辺倒だった従来の姿勢などすっかり忘れ、自分たちのハイブリッドカーこそ先進的であると喧伝していた。
ただしハイブリッドカーの技術は、先行するトヨタが多くの特許を取得しており、ドイツ車は隙間を縫うような仕組みしか使えない。ゆえに今回メルセデスとBMWが発表した2台はモーターのみの走行ができず、両社から続いて登場予定の新型車は2個のモーター、3個の遊星ギア、4個のクラッチを用いる複雑怪奇な内容となっている。性能や価格で日本製を上回るとは言いにくい。
ところが、舶来志向が強く、なかでも輸入車の6割以上を占めるドイツ車を過大評価する日本の自動車ジャーナリズムは、メーカーの主張を鵜呑みにし、日本車を超える性能と書き立てるからややこしい。こうした報道は眉に唾して見る必要がある。
同じヨーロッパ車でも、環境性能の高い小型車を販売の中心に据え、EVでは日本と提携を進めるフランス車のほうが、はるかにエコ重視である。さらにハイブリッドカーであれば、アメリカはもちろん、韓国や中国のメーカーも手がけている。ブランドイメージに振り回されない冷静な視点が大切だ。