2010年2月号 BUSINESS
経営破綻のツケをすべて金融機関に支払わせる再建案を作ったことで、メガバンクから猛烈な反発を食らい、日本航空の再建指南役を引き摺り下ろされた冨山和彦。昨年3月にはアドバイザーに就いていた中国企業からの資金拠出に失敗し、不動産ファンド大手のパシフィックホールディングスを会社更生法の適用申請に至らしめた。さぞかし謹慎蟄居の身と思いきや意気軒昂のようだ。パイオニアの再生に舞い戻ったのだ。
中堅AVメーカーのパイオニアはリーマン・ショックの直撃を受け、09年3月期末には債務超過が現実味を帯びるほど財務体質が悪化していた。冨山がトップを務めるコンサルタント会社、経営共創基盤が、そのパイオニアのフィナンシャルアドバイザー(FA)に就き、必要な資本は当初600億円とはじき出し、スポンサー探しを行った。
増資の半分はパイオニアに改正産業活力再生法の適用を申請させ、公的資金を活用。残りを事業会社やファンドからかき集める方針だった。このうちホンダからは25億円をせしめたものの、公的資本注入の可否を判断する経済産業省が夏ごろから「大義が見当たらない」と態度を豹変させたため不調に終わっている。
その後、冨山は「猟官運動」を展開し、JAL再生タスクフォースのサブリーダーとなり、経営共創基盤を離脱。FAが事実上休眠状態となったパイオニアは、自力で資本増強策の見直しを進め、本社移転やグループ全体で1万人にのぼる人員削減、生産拠点の統廃合を加速して「必要な資金は200億円で済む」(パイオニア社長の小谷進)ところにまで、漕ぎ着けた。
そのころ、国土交通相の前原誠司に見切りをつけられたJAL再生タスクフォースは、わずか1カ月で解散の憂き目に。冨山は12月に経営共創基盤のCEOに復帰を果たし、パイオニアの資本増強策が再び動き出した。陣頭指揮を執る冨山の狙いは国内外のファンドだが、増資交渉ははかばかしくない。
最有力候補に目されていた米大手ファンドのブラックストーンは、「パイオニア唯一の優良事業であるカーナビなどの車載機器事業を分社化させるなら、新会社への出資に応じると高めのボールを投げた」(外資系ファンド幹部)。が、車載事業の利益で3万人弱の従業員を養う経営スタイルのパイオニアがこれを呑めるはずもなく、交渉は頓挫した。
冨山が次善の策として攻勢をかけているのはアドバンテッジ・パートナーズ(AP)と大和証券SMBCプリンシパル・インベストメンツ(大和SMBCPI)。APはかつて冨山が産業再生機構専務時代に手がけた旧カネボウの破綻処理で誕生したクラシエホールディングスなどに出資した国内のファンドだ。大和SMBCPIは保有していた三洋電機株をパナソニックに売却したため、手元の投資資金が豊富であることに目をつけた。
もっとも「両社の反応は極めて冷ややか」(外資系証券幹部)。冨山らはリストラによってパイオニアが思った以上のスピードで業績回復が進んでいると強調するものの、「本社移転で固定費が減ったとか、車載機器市場が堅調だとか、薄弱な根拠しか並べられない」と関係筋は言う。600億円の社債償還を迎える今年3月が増資期限だが雲行きは怪しい。
いい迷惑なのがホンダだ。同社は他の出資者が揃い、200億円(当初は400億円)の資本増強が確実に実行されることを条件に出資をする方針。このため昨年、3度にわたって出資の延期を表明している。冨山はホンダを呼び水に他のスポンサーを募ろうと同社の出資を公表したものの、見事に当てが外れた。ホンダの社名だけが浮遊する始末だ。パイオニアの資本増強策が不調に終われば、冨山のコンサルティングは、わずか1年の間に3連敗したことになる。それでも「企業再生のプロ」と胸を張るのだろうか。(敬称略)