2010年6月号 POLITICS
「日本はもうすぐ沈む。大阪からもう一度、つくり直そう。これから政権与党を含め、既存の政党と大阪府域内で大戦争になるだろう!」
4月19日に開かれた「大阪維新の会」の発足式。橋下徹大阪府知事はハイテンションでこうまくし立てた。結局、橋下新党の旗揚げには府議会議員を中心に30人の地方議員が集まった。大阪府と大阪市を解体・統合する大阪都構想を目玉に掲げたローカル新党は、既成政党の参加を拒否し、来年の統一地方選で大阪府、大阪市両議会で過半数獲得をめざす。橋下知事の振り上げた拳は、既成政党への宣戦布告となった。
壇上の橋下知事は「名前は言えないが」と断りながらも、民主党のさる国会議員から「民主党候補に対抗馬を立てたら、政府の地域主権戦略会議から私を外す。大阪の予算も考え直す」と圧力をかけられたと暴露した。この人物が、民主党大阪府連代表を務める樽床伸二衆議院議員であることは容易に察しがつく。地元の府議会議員を2人も維新の会に引き抜かれたうえ、来年の統一地方選で「ガチンコ勝負」を仕掛けられてはたまらない。府連常任幹事会で「売られたケンカは買う」と言い放った樽床氏は、橋下氏を牽制しなければ面子が立たないのだ。
一方、維新の会に参加した自民党議員への離党勧告や除名処分を見送った自民党内からも「あんな宣戦布告を許しておくのか」と怒声が上がる。4月16日、大阪市内で開かれた自民党大阪府連のパーティーで壇上に立った橋下知事は「招かれざる客なのかなと思ったのに自民党はすごい」と見え透いたお世辞を述べたが、谷垣禎一総裁は「東京から知事さんの新党にハラハラしながら拝見させていただいている」と間の抜けた挨拶を返し、会場から嘆息が漏れた。公明党関係者も「何とかしないと脅威になる」と警戒心を露にする。
既成政党にとって悩ましいのは5月23日に投開票が行われる大阪市議の補欠選挙。維新の会では、46歳の女性会社役員の擁立を決め、さっそく連休中の5月4日、橋下知事自ら街頭に立ち、「既存政党は議席を得ることだけ。我々は大阪をつくり直すことだけを目標にした政治グループだ」と訴え、議席獲得に懸命だ。民主、自民、共産3党も公認候補を立て激戦になっているが、既成政党が惨敗すると参院選に影響が出るだけに、各党は国会議員を動員したテコ入れに躍起だ。
自民党籍を持つ維新の会の所属府議が、万一、維新の会の候補の応援に回った場合、自民党も何らかの処分を検討せざるを得なくなる。ある自民党幹部は「何でこのタイミングで補選なんや。党がばらばらになる」と嘆く。公明党も参院選の大阪府選挙区に公認候補を立てるため他党と選挙協力しにくい。既成政党側は「ここで橋下新党を叩いておかないと雪崩現象が起きる」という危機感を共有しながら、包囲網を敷くことができないジレンマに陥っている。
今後、橋下知事は、名古屋市の河村たかし市長が立ち上げたローカル新党「減税日本」との連携を深めるとみられる。中田宏前横浜市長らの「首長連合」などを通じて、河村氏とは近い関係にある。一方、地方分権を掲げる中田氏らの「日本創新党」とは微妙に距離を置き、中央政界を敵に回さないよう気を使っている。事実、維新の会の発足式の数日前、橋下氏は原口一博総務大臣と会食し、理解を求めた。原口大臣とは関西の民放番組出演で知り合い、親密な関係を保っている。今のところ原口大臣は、橋下氏を総務省の特別顧問から外すつもりはないようだ。
さらに4月27日には小沢一郎幹事長と会談する手はずだった。当日午後、検察審査会の「起訴相当」の議決が出たため中止になったが、橋下氏は小沢氏を唯一の実力者と認めている。ある民主党幹部は、「既存政党と大戦争などと派手なアドバルーンを上げた事情を小沢さんに釈明して、激高する樽床氏を封じ込めようとしたのではないか」と話す。
中央政界は今、参院選後の政界再編をめざして新党が乱立している。中央の自民党や民主党の枠組みが溶解したら地方政界の座標軸はどうなるのか。橋下新党や河村新党などローカル政党の相次ぐ旗揚げも、中央の政界再編の行方をはるかに睨む動きであることは間違いない。