2010年10月号 連載 [IT万華鏡]
ミクシィ、ディー・エヌ・エー(DeNA)、グリー……。国内3大SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の競争が激化している。とくに、携帯電話向けゲームで競合するグリーとDeNAが熾烈な刺し合いを演じている。
事の始まりは昨年9月。グリーは同社の人気ゲーム「釣り★スタ」に類似したゲームを提供しているとして、東京地裁に著作権侵害でDeNAを提訴した。この係争はいまだ決着がついていないが、7月、DeNAがグリーに反撃。「モバゲータウン」にゲームを提供するゲーム会社に対し、グリーにもゲームを提供する場合は、会員の流入を促さないと表明していることが明らかになったのだ。ゲーム会社の囲い込みを狙った対策である。
両社は人材獲得でも火花を散らす。8月15日、DeNAがゲーム開発エンジニアの中途採用に際し、200万円の入社準備金を支払うと報道されると、翌日にはグリーも200万円の入社支度金の用意があると発表。対抗心を露わにした。業界関係者は「両社ともにドル箱と言われる携帯向けゲーム市場を死守すべく、引くに引けない状態」と語る。
ただ、グリーとDeNAの目指す方向性は異なる。DeNAは、あくまで携帯ゲームに主軸を置き、培ったノウハウを持って米国や中国といった海外市場に打って出る考えだが、グリーは稼ぎ頭であるゲームにあまりこだわっていない。「田中良和社長はゲームはコミュニケーションツールの一環に過ぎないという考え」(業界関係者)
これはグリーの事業展開にも表れている。敵はDeNAのみならず、ゲーム競争からは一線を画していたはずのミクシィの市場にまで手を広げようとしているのだ。
9月10日、ミクシィは同社主催のイベントで、「mixi」内で形成されている人間関係を他企業が利用できる新機能を発表。EC(電子商取引)サイトなど外部のサービスに対して、SNS内の人間関係を自由に利用できるよう公開するとした。例えば、あるECサイトで商品を購入したユーザーが、サイトに設置された「mixiチェックボタン」をクリックすると、mixi内の知人・友人にその情報が流れるというもの。企業が宣伝費をかけて流すテレビCMや芸能人を使ったプロモーションよりも、知り合いに勧められた方が購買に結びつきやすいという心理を突いたサービスである。軌道に乗るかどうかはこれからだが、従来の消費者の行動パターンとは異なる流れを生み出す可能性がある。
ミクシィは同時に、中韓SNS事業者との提携も発表。課金収入で稼ぐグリーやDeNAに対して、あくまでプラットフォーム・ビジネスを主軸とする意思をアピールした格好だが、同日、グリーも計ったかのように同様の外部連携機能を開始すると発表した。さらに、「価格com」や「YouTube」といった大手サイトとの連携も合わせて発表。業績が伸び悩み起死回生の一手を打ったミクシィの出鼻を大きくくじく挙に出た。DeNAは今のところ静観の構えだが、ミクシィとは関係を強めているようだ。
「グリーには節操がない。ただ、その節操のなさこそが強みとも言える。可能性のある市場には確実に手を打っていく」と業界関係者は恐れる。
世界最大のSNS、米フェイスブックの会員数は5億人。今年に入り、アクセス数でグーグルを抜くなど、インターネットの世界においてSNSの存在感は増す一方だ。三者三様のビジネス展開が少しずつ顕在化している国内SNS市場だが、米フェイスブックの勢力拡大が日本にも広がっている今こそ、国内勢は勝負所。大手3社の仁義なき覇権争いは、さらに激化していくだろう。