「母ありてこそ」ふるさと

2010年11月号 連載 [眠れぬ夜のバラード ~うつ病時代の処方箋~]

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「母ありてこそふるさとの祭りかな」(網代錦泉子)という句が、昔勤めていた千葉県館山市の病院の病室のドアに書いてあった。作者は、そのころすでに結核で死んでいたが、いまだ私の脳裏に、その句は生きている。この句はコンクールで2等であったという。私はなぜ1等でないのか、と俳句の専門家に聞いたところ、「母とふるさとは同じ意味で、二つ重ねたからではないか」と言っていた。そのときは、そんなものかと思ったが、この句は一度聞いたら忘れられない深い響きを宿している。「母」と「ふるさと」が共鳴し、さらに「祭り」という言葉が共鳴する。母イコールふるさとではなく、母イコール祭りでもない。ただ、母、ふるさと、祭りという、日本を形作ってきた村社会の三つの表象が共鳴しあい、そのいずれが欠けても、これほどの深い響きとはならない。その一つが欠けても、すべてが失われてしまう。 ………

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