2010年11月号 連載 [IT万華鏡]
SNSの熾烈な争いについては先月号で報じたが、この恩恵にあずかっているのが各社にゲームを提供するSAP(ソーシャル・アプリケーション・プロバイダー)と呼ばれるベンチャー企業だ。
「好きです」「あなたのことが大好きです」と次々に女の子のキャラクターが登場して告白するのは携帯ゲーム「ヒメこい」のテレビCM。グリーで遊べるゲームだが、実は開発しているのはウインライトというSAPだ。
これまで自社開発によるゲームしかCMを流さなかったグリーがSAPのゲームも宣伝し始めたのは、ディー・エヌ・エー(DeNA)のSAP囲い込みへの対抗策だ。自社のSNS「モバゲータウン」をいち早くオープン化し、他社のゲームも利用できるようにしたDeNAには、先行者利益を狙ったSAPがこぞって参加した。だが、後発のグリーの猛追を受け、DeNAはグリーにもゲームを提供しようとしたSAPに圧力をかけたという。
DeNAが“ムチ”なら、グリーはCMという巨大な“飴”で陣営を盛り上げようというわけだ。ベンチャーのSAPにとって、CMに使われる効果は計り知れない。あるSAP経営者は「人気が出たゲームの月間売り上げは億を超える。開発も低予算なので、利益率は高い」と語る。
いまや携帯ゲームは一攫千金を狙い世界中のSAPが鎬を削るゴールドラッシュ。大手ゲーム会社も熱い視線を注ぐが、プラットフォームの大地主であるSNSのさじ加減ひとつで命運が反転したSAPもある。複数のSNSにゲームを提供することで、近い将来上場を目指していたあるSAPは、前述のDeNAの措置によって大幅に事業計画を見直さざるを得なくなった。別のSAP関係者は「利用者の誘導を切られて売り上げは半分以下になった」と肩を落とす。