映画『ハーモニー 心をつなぐ歌』
2011年1月号
連載 [IMAGE Review]
by K
監督・脚本:カン・テギュ/出演:キム・ユンジン、ナ・ムニ、カン・イェウォンほか
配給:CJ Entertainment Japan
ユーモアにペーソス、社会性の三拍子。韓国映画『ハーモニー 心をつなぐ歌』を二度見て、二度泣けた。女子刑務所を舞台に受刑者が合唱団を作り上げる中で浮かび上がってくる家族の愛憎、人間同士の絆のいとおしさ、人が人を裁き死刑にする割り切れなさ。エンターテインメントとして優れているだけでなく、人生の意味を深く考えさせる作品だ。
実話から生まれた物語である。韓国の刑務所では、所内で受刑者が出産した場合、18カ月だけ母親が子供を養育することが許される。夫の暴力から身を守ろうとして夫を殺してしまったジョンヘ(キム・ユンジン)は刑務所内で息子ミヌを出産した。慰問にやってきた合唱団の歌声に感銘を受けたジョンヘは合唱団結成を思い立ち、周囲に呼びかける。歌を通じて明日への希望を見出した受刑者たちは猛特訓によって所長らを前に合唱の成果を披露するが、ジョンヘには最愛の息子との別れが待っていた。4年後、クリスマスの日にソウルで開かれる全国合唱大会に女子刑務所の合唱団が招待されることになり、家族や友人にも会えると期待は高まるのだった。
『シュリ』のヒロインで鮮烈な印象を残したキム・ユンジンは、3年ぶりの韓国映画主演。本作では音痴な役で、その調子っぱずれが可笑しい。受刑者それぞれが違った音色の人生模様を持ち、それが和合して壮大な物語を奏でる。中心的存在は、夫と浮気相手を殺害した元音楽大教授の死刑囚ムノク(ナ・ムニ)で、ジョンヘに懇願されて合唱団を指揮する。合唱団随一のソプラノが、性的暴行を加えようとした義父を死なせたユミ(カン・イェウォン)。初めは心を閉ざしたが、ムノクの深い愛情に触れて少しずつ心を開いていく。
起伏に富むストーリーで飽きさせない。娘や息子に接触を拒否され孤独感を募らせていたムノクは、合唱団の活動によって生きる喜びを見出すが、その果てに待っていたのは非情な法の執行であった。韓国ドラマでは国民的女優と言われるナ・ムニの静かな表情の裏に透かして見せる激情の表現が秀逸で、最後のシーンがまさにクライマックスだ。
撮影は、モデルとなったチョンジュ(清州)刑務所で行われた。当初はセットを使う予定だったが、刑務所側が趣旨に賛同して協力したためで、受刑者が生活している空間を使ったロケは韓国でも異例のことだという。『デュエリスト』『TSUNAMI-ツナミ-』で助監督として演出の腕を磨いたカン・テギュの長編初監督作品だが、幸先のいいスタートとなった。良質なエンターテインメント作品の作り手として今後が期待される。
秋の「コリアン・シネマ・ウィーク2010」ではほかに、死刑執行過程を若き刑務官の視点で見た『執行者』という映画があった。絞首刑は日本と変わらないが、凶悪な連続殺人が起きたことで12年ぶりに死刑執行が復活、現場はパニック状態になる。個々の刑務官の複雑な心理的葛藤を臨場感たっぷりに描いている。日本でも8月末、法務省が死刑執行室を報道機関に公開し、死刑論議が再び燃え上がった。これから韓国映画のように生々しい刑務所映画が日本でも作られる予感がする。