2011年5月号 連載 [IT万華鏡]
「日本経済新聞には頭にくる」。こう漏らすのはNHK幹部の一人だ。NHKは東日本大震災発生当日、広島県の中学生が震災報道をネットライブ配信サービス「Ustream」に流していたことを公式に許可した。その後、自らもUstreamへの配信を開始。ヤフーやニワンゴからの配信要請にも相次いで応じた。
一方、日経も電子版でNHKの放送映像を配信できるよう要請したが、NHKは報道機関への配信を認めなかった。すると日経は3月12日未明に「NHK、ネット通じた地震映像の配信認めず」と題した記事を配信する。冒頭のNHK幹部の怒りはこの報復記事に対してのものだ。ネット上ではこの記事をめぐり、NHKに対しても批判的なコメントが多く寄せられているが、NHKの姿勢は「報道機関は自分で取材せよ」で一貫。動画配信サービスには許可しても報道機関が要請してくるのは筋違いという考えが根底にある。
震災発生当日、日本テレビを除く民放各社は、NHKに続く形でUstreamやニワンゴが運営する「ニコニコ動画」への震災報道の再送信に踏み切ったが、思わぬ形で力の差が露呈することになった。震災報道という同じ括りにおいて、のべ視聴者数の差が実数で明らかになってしまったのだ。視聴者数はNHK、TBS、フジテレビ、テレビ朝日の順。信頼度が数字に表れたともいえる。「皆、情報の配信だけに気を取られ、まさか実数の視聴率で比較されるとは思っていなかったのでは」と業界関係者は語る。
なぜNHKが即座にネット再送信に踏み切れたかについては、英断でも何でもなく、実は3月1日に施行された「改正放送法」によって放送の定義が「無線通信」から「電気通信」に変わったから可能だっただけという穿った見方もある。NHKに端を発したネット再送信の波紋はしばらく続きそうだ。