筆を曲げない伝記筆者
2011年6月号 連載 [日記逍遥 第29回]
「牛場、細川、富田などゝいふ人々の間で、矢部さんにお願ひする以外にないといふことになったので、曲げて引受けてくれないかといふ非常に丁寧な話しであった」昭和21年6月17日の矢部貞治日記は、自決した近衛文麿の側近、後藤隆之助から、伝記の執筆依頼を受けたことを明かしている。細川護貞日記によれば、近衛の伝記については、すでに昭和19年から取りかかっていたようである。「山本有三氏と同車、氏は近衛公の伝記を執筆中にて、その口述に訪問せる由なりき」(2月19日)それゆえ近衛没後、山本有三が担当になるのは自然な流れであった。その後について矢部日記は語る。「山本有三氏が書く筈であったら、眼底出血で駄目になり、鈴木文史朗氏に持って行ったら…米国の雑誌を引受けてゐてとても駄目だと言ふ」そこで白羽の矢が立ったのだという。とりあえず検討すると返事をしたのち、矢部は考えを ………
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