2011年10月号 DEEP
大手DVDレンタル店チェーンのゲオで内紛が燻っている。
表沙汰になったのは7月27日。創業者の長男で取締役を務める遠藤結蔵氏が突如、臨時株主総会を開催するよう会社側に要求したのだ。上程する議案は自身が推す弁護士や会計士ら5人を社外取締役に追加選任するというもの。遠藤氏の持ち株比率は個人と関連会社名義を合わせて約3割に上る。弱冠33歳の御曹司がやおら資本の力を振りかざしたのには、複雑にこじれた社内事情があった。
事の発端は今年3月下旬。不適切な会計処理が発覚したことがそもそもの始まりだ。舞台となったのはインターネット通販子会社の「リテールコム」。弁護士で構成する第三者委員会の調査によれば、2006年頃から複数の社員が親密な仕入れ問屋などとの間で循環取引を繰り返してプール金をため込み、一部を横領していた。結果として、ゲオが過去に計上していた架空売り上げは30億円あまりになっていた。
関与した4人を解雇とするなど6月初旬に社内処分が決まり、この問題はひとまず収束するが、続いてこんどはインサイダー取引疑惑が持ち上がった。7月21日、会社側は異例の発表を行う。システム担当の大橋一太取締役が社内規定に背いて保有するゲオ株を売却していたことが判明、取締役会で辞任勧告を決議したとの内容だった。
実は、二つの不祥事は微妙に絡み合っている。関係者によると、独自調査を進めていた遠藤氏はまだほかにも不明朗な会計処理が行われているとの疑念を深め、大橋取締役に調査協力を依頼。すると、十数件、金額にして数億円の問題取引が見つかった。ところが、沢田喜代則会長と森原哲也社長のラインは問題の封印を画策、かわりに大橋取締役の追い出しに走ったというのである。
辞任勧告から1週間、見るに見かねた遠藤氏は冒頭の実力行使に出た。それに対し、会社側は表立っては反対の動きを見せていない。ところが、ここにきて遠藤氏を個人攻撃するような裁判が起こされ、事態はにわかに複雑化の様相を呈している。「ブレインズネットワークス」なるコンサルティング会社が、遠藤氏に対して2億5500万円の損害賠償を求め、名古屋地裁に提訴したのだ。
ゲオは中古パチンコ台のネット流通事業を手がけるためブレインズ社に「協賛加盟金」の名目で3億円を預けていた。遠藤氏との交渉の過程でブレインズ社は今年6月にそれを返金。ところが、その後、遠藤氏による「虚偽の事実に基づく恫喝」があったとして態度を一転、返金の取り戻しを求めてきたのである。
都内の雑居ビルに入るブレインズ社の周辺は何ともきな臭い。会長は巨額脱税事件で知られる「翼システム」でかつて社長を務めていた尾上正志氏。同居する「アールアンドアール」なる会社は、未公開株トラブルを起こした飲料水販売会社「H 4O」と接点がある。問題の取引を仲介したゲオ関連会社の関係者は昨年4月に破産したばかりの人物だ。
実は遠藤氏が追及した不明朗取引の一つもブレインズ社を巡る問題だった。そもそも同社で7月末まで取締役だった神谷文彦氏はゲオの顧問を名乗っており、利益相反取引だった疑いもある。周辺人脈を辿ると、コピー機選定を巡る不可解なコンサルティング契約も存在するという。
愛知県に本社を置くゲオは積極的なM&A(合併・買収)で全国進出。売上高は2千億円を突破し、いまや「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブをしのぐ存在だ。その拡大路線を敷いたのが遠藤氏の実父・結城氏。だが、結城氏は社長在任中の04年に事故死。その後を継いだのが共同創業者的な立場にあった現会長の沢田氏だった。ただし、沢田氏のゲオ株保有はわずか。そのあたりの遠藤氏との捻れた関係もゴタゴタの遠因となっているフシがある。
臨時株主総会は10月13日。採決のその時まで状況は予断を許さない。