いのちと修羅を見つめて
2011年11月号 連載 [ひとつの人生]
人間(じんかん)はなやましきこと多けれど天涯に桔梗(きちかう)の紺の風吹く歌人・辺見じゅんの最後の作品となった6番目の歌集『天涯の紺』の書名は、この一首からとられている。秋彼岸、72歳で卒然と逝った歌人は幼くして万葉集に親しみ、人の生と死を見つめる「いのちの器」としての短歌を生涯の伴侶とした。ゆかしい韻律に託したその世界が、さきの戦争に取材して高い評価を得たノンフィクションの作品の主題にもなっていった。捕虜としてシベリアに抑留された兵士が過酷な環境の下で祖国の家族にあてて残した言葉を発掘した『から来た遺書』や、沖縄戦に向けて戦艦大和に乗り組んで没した下士官兵の無念を描いた『男たちの大和』などがそれである。歌人として、作家として、さらに短歌結社や出版など文化のパトロネスとして、辺見じゅんが築いてきたものはおしなべて父、角川源義(げんよし)と ………
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