編集者の声・某月風紋

2011年12月号 連載
by 宮

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10月某日、東京・板橋区の公営住宅にこんな求人ビラが撒かれた。

<東日本大震災復興事業>福島(原発20㎞圏内)ガレキの撤去作業員募集――。真っ赤な活字で「1日4時間労働(交代制勤務)、日給2万7千円(月80万円以上)」と謳っている。「支払:10日ごとの締め、7日後支払い、期間:2カ月に限る(休日なし)、宿泊施設:無償提供、食費:1日3食、1750円(相殺可)」

飯場暮らしの短期労働だ。

「年齢:40歳~70歳(男性のみ)、労災あり(作業防護服支給)、登録制・定員50名、先着順で締め切り、お電話ください!」と続く。70歳の老人に白い服を着せ、どんな仕事をさせるのか、薄気味悪い。さっそく応募者を装い、募集先のTセンター(東京・渋谷区千駄ヶ谷)の担当者Iの携帯に電話をかける。

「当局の要請で住所不定・暴力団関係者はお断りしています。まず住所や氏名をご登録いただき、それを確かめたうえで面接をします。応募が殺到しており、仕事は年明け以降になります」と答えた。あるゼネコン役員は「仙台の夜の街は『ガレキ・サンバ』の賑わいだが、福島には誰も行きたがらない。東京電力の請負業者は非常に困っている」と内情を明かす。

全域避難となった双葉郡8町村の全世帯(約2万8千世帯)アンケート調査によると、会社員の3割、自営業者の6割が職を失い、8割が義捐金や仮払い補償金でやりくりしているそうだ。切羽詰まった人たちは、誰もやりたがらない高線量地域のガレキ撤去や除染作業で糊口を凌ぐことになるだろう。

10月27日、福島の女性たち107人が立ち上がり、経済産業省前で3日間の座り込みを行った。手書きのビラには「女たちの限りなく深い愛、聡明な思考、非暴力の強さが、新しい世界を作っていくよ!」とある。原発5キロ地点で農業を営む大賀あや子さんは、3月1日に完成した新築自宅への引っ越しの最中に被災した。今は会津若松市内のアパートに暮らす。最終日に行われた「1千人デモ」の先頭を歩いたが、溢れ出る涙が止まらなかった。

   

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