2011年12月号 連載 [IT万華鏡]
ビジネス系ウェブメディアの勢力図に異変が起きている。8月、新興の「現代ビジネス」(講談社)が「日経ビジネス・オンライン」(日経BP社、以下NBO)を媒体力を示す月間ページビュー(PV)で抜いた(ニールセン・ネットレイティングス調べ)。
NBOといえば、ビジネス誌が手掛ける本格ウェブメディアとして06年にスタートして以来、長らく読者数・PVともにトップの座を守ってきたが、ここ一年はライバルの「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社、以下DOL)の後塵を拝することが多くなっていた。DOLの伸びについて、社内関係者は「雑誌の大特集主義に対して、ウェブは個々の記事の積み重ねが大事。ターゲットや立ち位置にこだわらず、幅広いコンテンツを提供できたことが要因では」と分析する。
独立系の「JBPRESS」(日本ビジネスプレス、以下JB)も存在感を高めている。PVの変動幅は大きいものの、昨年10月と今年4月にNBOを上回った。同社は、JBの運営とは別に「isMedia」という出版社向けウェブ・プラットフォーム事業も手掛けており、DOLや現代ビジネスもこのシステム上で動いている。さらに、これまでトムソン・ロイターと共同サイトを運営してきた「プレジデント」(プレジデント社)が提携を解消し、12月中に自前サイトを立ち上げるためにisMediaを採用することを決めている。プレジデントが加われば、「isMediaのビジネス系媒体の総PVは7千万を超える」(関係者)とみられ、参加媒体の連携が強まれば新聞社などにとっても脅威だろう。
NBOのPVが伸び悩んでいる原因については「コスト削減で記事本数を減らした時期があったのが響いている」(関係者)と見る向きが多い。危機感を募らせた担当局長は「早期に5千万PVを目指せ」と社員に発破をかけているという。ちなみに、JBの川嶋諭編集長は元々NBOの初代編集長。JBの10月22日のコラムで「(日経ビジネスの局長の話を)『JBPRESSへの宣戦布告』だと受け止めた」と、一連のオリンパス報道に関する日経グループの姿勢とともに批判し、メディア関係者の間で話題になった。
一方、IT業界を主戦場とするウェブメディアでは苦戦が目立つ。朝日新聞が09年7月に買収した朝日インタラクティブ(旧社名はシーネットネットワークスジャパン、以下C社)からは人材流出が相次いでおり、10月末、編集記者やデスクの採用募集を開始した。今夏、中核サイトの「CNET Japan」などから主力記者が相次いで離職したためだ。
朝日新聞が買収する前、C社は赤字が続いていた。買収後は「CNN.com」の運営受託や、「asahi.com」との広告セット販売などグループシナジーを発揮し、業績は回復した模様だが、「コンテンツ力が弱体化しているのは明らか」と業界関係者は言う。現在、PVは公称1500万だが、「実態は1千万を切ることもある」(同)と明かす。
CNETは長らくネット業界において高い知名度を誇ってきたが、最近ではブログメディアの「Tech Crunch」など競合の成長が著しく、地位が揺らぎ始めている。朝日新聞にとってはせっかく手中に収めたブランドだが、メディアの根幹をなす人材流出が続けば画餅に帰す。
07年4月に上場したアイティメディアは株価低迷に苦しむ。株式分割を実施した10年9月時点で474円だった株価は現在257円(11月8日)。同社もまた今年、主力記者が流出しており、長期的にはコンテンツ力の低下は免れないだろう。