「節電」でブームとなり、利が厚いと異業種が参入した。が、丸投げリレーで落とし穴にはまった。
2012年3月号 DEEP
ウケに入るLED電球だが、意外な落とし穴
EPA=Jiji
寿命が約1千時間の白熱電球に対し、約4万時間のLED電球。しかも消費電力が蛍光灯の2分の1とあって、LED電球は、東日本大震災後の節電意識の高まりと電気料金値上げを見越して、販売数量を急速に伸ばしている。特に顕著なのはコンビニやドラッグストアでの導入。こうした店舗が店内照明のLED化を実施、大量生産の恩恵もあって“難点”だった初期投資の高さを是正、一般家庭への普及にも弾みがつきそうだ。
そんなLED照明の世界だが、明るい話ばかりではない。
業界関係者がため息をつく。
「LEDは儲かるというので、廉価な海外製品を販売する企業が参入して混乱しています。一方で、東芝ライテックやパナソニックといった国内大手は日本電球工業会の“談合”によって規格を一本化、それで高値を維持しています。そこに電通など異業種参入組も加わって、トラブルが頻発していますね」
これから紹介する113億円の「水増し発注」は、LED業界が現在置かれている“無秩序”を象徴するものだろう。
「商材」であるLED電球の流れはごくシンプルだ。
マツモトキヨシやツルハなどドラッグストアチェーンから受注したという“ふれこみ”で、中小企業の事業を支援するコンサルタント会社のウェルバーグで、同社は直管型LED照明など113億円分の全量を、広告最大手、電通の100%子会社の電通ワークスに発注する。
同社は、広告代理店業務に絡むビル管理、不動産賃貸・仲介、人材派遣、環境対策コンサルティングなどを行う会社で、社員数約480人、年商約200億円の規模。広告派生事業の新たなメニューに、将来性のあるLED照明を加えていた。
むろんLED電球を開発・販売するノウハウはなく、電通ワークスは専門商社のワールド・ワイド・エンジニアリング(WWE)に“丸投げ”する。同社は2005年2月、LED照明に着目して設立されたが、「将来の照明」という「将来」の部分がなかなか取れずに苦労した。
最初の決算期である06年3月期以降、09年3月期までは、「オーダー案件」を中心にしていたものの、業績は低迷。10年3月期にようやくエンドユーザーへの納入が始まり、売上高は4億円近くになる。11年3月期は一気に弾けて、約42億7千万円を達成した。
その大半が電通ワークスからの大量発注で、WWEへの発注額の3分の1強でしかないから、翌期以降も期待できたし、他のルートも開拓しているというので、長い助走期を経てやっと飛躍期を迎えたかに見えた。
ところが、あえなく頓挫する。電通ワークスとの間にトラブルが発生したためだが、それは後述するとして「商材の流れ」をもう少し追いたい。
メーカーではないWWEは、LED電球をエフティコミュニケーションズ(ジャスダック上場)を経て調達、電通に納めることになった。同社は1985年に設立された情報通信、OA機器などの販売会社で、連結従業員数約1400人、売上高約416億円(11年3月期実績)の中堅企業である。同社にとってもWWEを経由した電通ワークスからの発注は大きく、11年3月期に41億円を計上した。これは売上高の1割強に達するため、昨年1月24日に以下のように適時開示した。
11年3月期はWWEからLED電球41億円分を受注。同社の得意先は電通ワークスで、今後継続的な取引が見込まれることから、当社にてLED事業を開始することになった――。
それまでエフティコミュニケーションズは、連結子会社を通じ商品名「オセデル」で販売していた。それをやめて直接販売に踏み切ったのだから、WWEを通じた電通ワークスへの納入にいかに期待していたかがわかる。市場も好感、3万円前後だった株価は翌日から急騰、ストップ高が続き昨年2月1日の終値は5万7000円をつけた。
しかしこの113億円は「水増し発注」だった。もしくは、11年3月期の売上高にしたいという関係者の「思惑発注」だったのである。
では、ウェルバーグ→電通ワークス→WWE→エフティコミュニケーションズに至る商流のどこに問題があったのか。
関係者の証言は食い違うが、総合判断すればこうなる。
ウェルバーグと電通ワークスの担当者が、どうしても売り上げを立てたくて“見込み”で発注した。だが、無理だということになって電通ワークスはWWEにキャンセルを告げる。113億円のうち前渡金分の約44億円に発注をとどめ、それは在庫として抱え、時間をかけて処理することにした。しかし、そのつもりで事業計画を立てたWWEやエフティコミュニケーションズは納得しない。今は“フタ”をしているが、やがて民事刑事で告訴合戦になりそうだ。
最後は「思惑発注」をキャンセルで逃げようとした電通ワークスと、「頼みの綱」を手放すまいとするWWEとの“争い”となるのだろうが、本誌に対し「行き違いが生じているのは事実ですが、現在、調査中です」と電通ワークスが答えた以外は、3社ともトラブルの事実さえ認めず、ウェルバーグは弁護士が暗に記事掲載に警告を発する電話をかけてきた。1月24日の適時開示以降の株価形成に、証券取引等監視委員会が関心を持ち、内偵しているという事実も、関係者の口を重くしている。
大手が高値販売の「殿様商売」をしている陰で、「人脈ひとつ」「口先ひとつ」でブローカー的に稼げるとあって、LED事業にはこの手のトラブルが絶えない。電通以外にも、子会社を通じて新規参入した鉄鋼メーカーや精密機械などの大手が、「ブローカー話」に引っかかって四苦八苦、撤退を示唆している。白熱電球がすべてLED電球に代われば2兆円。“甘い話”には、すべからくワナがある