中小企業経営者がイデオロギーを超え集結。エネルギーから地域経済の自立を目指す。
2012年8月号
DEEP [特別寄稿]
by 吉澤保幸(場所文化フォーラム代表幹事)
本当の豊かさとは何か、経済の本来のあり方を問い直し、「単なる反原発運動ではなく、原発がないほうが健全な国・地域づくりができるという対案」を各地で実現し、それをネットワークしていこうとする集まりが生まれた。去る3月20日、東京で発足した「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(エネ経会議)という全国の中小企業経営者を中心とした任意団体である。現在、会員は私も含め450名を超え、日々増えている。
その設立趣旨は、「経済人としてエネルギー問題を正面から捉え、地域での再生可能エネルギーの自給体制の実現を通じて、持続可能な地域経済と地域社会の自立を目指す」というもの。
本団体の設立を呼びかけ、世話役代表となった小田原かまぼこの老舗「鈴廣」の副社長、鈴木悌介氏(小田原箱根商工会議所副会頭)は、9年前、私が地域活性化による日本再生を目指す有志と任意団体「場所文化フォーラム」を立ち上げ、活動を始めた時からの仲間である。
背景にあるのは、今が文明の転換期にあるという歴史認識である。端的には2008年のリーマンショックのようにグローバル資本主義が行き詰まりを厳然と示す中で、無事で安心に暮らせる持続可能な社会をローカルから紡ぎ直さなくてはならないという強い危機意識であった。
各地に埋もれている「場所文化」(各地域が有する自然との共生に基づく多様な歴史風土・生活様式・ものづくりなどを呼ぶ)を今一度甦らせながら、都市と地域の対等な関係をお金の質を変えて再構築し、地域を元気にしようと、一緒に東京・丸の内に飲食店(「とかちの…」や「にっぽんの…」)を開いたり、高崎(屋台村創設)や宇和島(木屋旅館再生)などで実践を重ねてきた。
また、NPO法人「ものづくり生命文明機構」(07年発足、日本から共生・循環等に基づく新たな持続可能な文明観を創造し、地域とものづくり企業等を支援している)とも連携して、08年以来、毎年全国から志ある人々が集うローカルサミットを開催しているが、第3回(10年)は小田原で鈴木氏を実行委員長に、「お金にかわるもう一つのものさしを持とう」のテーマで開催した。
こうした「志民」活動を一段と後押ししたのが、昨年の3・11であった。巨大地震と大津波、それに加えてこれまでの物質・エネルギー文明を支えてきた原発の安全神話が崩れ、未来のいのちと自然にも計り知れない災禍が及んだ。多くの方々の犠牲に報いるためにも我々は価値観を転換し、高齢化、人口減少、経済の成熟化等世界の最先端の課題に立ち向かう責務を負った。その時、一志民として、そして「地域に生まれ育ち、地域の人々と共に働き、地域に支えられ、地域の経済活動の一翼を担っている中小企業」の経営者として、鈴木氏が取ったアクションが、エネ経会議の設立であった。
ちょうど昨年9月に、「東日本大震災から学ぶ地域からの日本再生プラン」を掲げ、富山・南砺で第4回ローカルサミットを開催した。もちろん鈴木氏も参加し、従来からの成長・効率のグローバリズムの延長線上に確かな未来はないこと、ローカルからの、人と人、人と自然、生者と死者などとの確かな関係を取り戻す「いのちの紡ぎ直し」による「地域の自立と連携」の必要性を強く語りあった。
これを踏まえ私は、再生可能エネルギーを機軸に据え、グローバルマネーに翻弄されてはならない「いのち」の4分野(農林漁業、環境保全、健康医療・介護福祉、教育)の循環を具体化するエコビレッジ構想の実現を図る動きを進めている(12年1月「エコビレッジフォーラム」の設立)。一方、鈴木氏は全国の仲間たちへの呼びかけを進めながら、本年1月に全国を行脚、会議設立に向けた準備を加速させた。
私もいくつかの地域に同行したが、各地で「“経済界”とひとくくりにされるのはおかしい」「核の平和利用を刷り込まれ沈黙の賛同を行ってきたが、何よりも子供たちの笑顔を残していくためには我々が具体的なアクションを起こさなくてはいけない」「大手を中心とする易きに流れる動きに任せていてはいけない」といった中小企業経営者の熱い思いが発露され、冒頭の設立総会に多くの方が集結した。
設立後4カ月が過ぎ、会員間の情報共有のHP構築を急ぐ一方、各地域でのエネルギー自給体制を実現するための各種勉強会や見学会、映画上映会(『第4の革命』)などの実施を一つ一つ始めてきている。
私としては、「エコビレッジフォーラム」と「エネ経会議」との連携を強化しつつ、地域での持続可能な低炭素社会づくりに傾注しているが、その際以下の諸点に、特に留意を払いたいと考えている。
まず第一に、我々が目指す新たなライフスタイルの構築の第一歩は、従来の利便性と効率追求で費消してきたエネルギーの節約でなくてはならない。その時、現状で原発に頼らない暮らし(10年度比20~30%程度の節約)とは、バブル絶頂期の1989年、「失われた20年」直前のレベルであることをよく念頭におくべきであろう。
第二に、地域主権の貫徹である。つまり自然エネルギーはまさに地域資源であり、大企業によるメガソーラー、風力等の設置・運営よりは、「地域の、地域による、地域のための自然エネルギー創出」が優先されるべきである。そこに地域の中小企業を中心とした雇用と価値創造が生まれると同時に、それを支え、活かされるのが地域のお金である。今こそ、地域金融機関による「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」(環境省、11年)の実践に期待したい。
最後に、原発再稼働の際の有力なロジックの一つが地元での雇用確保であったが、逆に脱原発に向けての廃炉(30~40年を要する)のビジネスの中にこそ、原発に頼らない社会構築に向けた真の地域内雇用が継続的に創出されるだろう。それを明示していくことによって、原発マネー依存からの脱却も具体的に可能になると確信している。