2012年10月号 連載
雑草に埋もれていく古里の農の未来を、誰が守るか。八十路を越えた老妻を連れ、連日のように我家(南相馬市小高区)に帰る。アパートの壁と見通せない窓に囲まれての生活の息抜きだ。地域作りと農業への夢がパタリと切れた。見通しも希望も何も語れない、為す事もなく灯す命火。古里の自然と豊かな恵みを若者達に守り伝えていく責任がある。
他人事でなく、できることからとの思いで、十名程の畜産農家でNPO「懸(かけ)の森みどりファーム」を結成、百頭程の牛飼いに取り組む。必ず帰る、この地域の農業を守り、次の世代に繋いでいく、思いを共有する同志だ。それは絆であり地域の文化なのだ。福島大学農学部教授曰く、農業の再興には十年はかかるだろうと。
第一原発の警戒区域である古里は人影もなく、雑草の繁るがままの荒野である。問題も多いが復興の夢ふくらます避難者に、立ちはだかりし行政の壁。でも私は、あきらめない。故郷を守り伝えること、それが俺達の役割だと信じている。FACTAという言論にも期待している。
南相馬市在住 渡部哲雄(81)