2012年12月号 連載 [いまここにある毒]
ロンドンで007映画を見たことがある。ジェームズ・ボンドの痛快なバイオレンスに観客がやんやの声援。ロンドンっ子の「寅さん」なのだが、英国車アストン・マーチンをけっして壊さない国威発揚には異邦人ながら感心した。最新作は、名女優ジュディ・デンチ演じる上司Mにつきまとう過去の亡霊と戦う筋立てだが、そのMが19世紀の桂冠詩人テニスンの詩「ユリシーズ」を口ずさんだのには驚いた。We are not now that strength which in old days / Moved earth and heaven; that which we are, / we are;(その昔、地と天を揺さぶりし強者に今はあらざれども、我はかくあり、かくあれば)という一節である。老いた英雄がなお「努め、求め、探し、屈しない」魂を歌うこの詩は、老大国の意地っぱりそのものだが、他人事ではない。震災とデフレとエレクトロニクス敗戦に見舞われて、めっきり老け込んだ経済大国 ………
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