加藤 秀樹 氏
構想日本代表
2013年1月号
POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌
1950年香川県生まれ。大蔵省勤務の後、96年退職し、翌年、非営利独立の民間シンクタンク「構想日本」を設立。2009年に内閣府・行政刷新会議の委員・事務局長に就任。「行政事業仕分け」の生みの親であり、自治体での仕分けは02年以降、170回を超える。
――内閣府の行政刷新会議の委員・事務局長として、民主党政権下で6回の事業仕分けをリードされました。
加藤 マスコミはすでに「仕分け」は終わったみたいなことを言いますが、その成果が出るのはこれからですよ。
――そもそも「仕分け」の成果とは?
加藤 過去6回の仕分けで削られた国の予算と発掘された「埋蔵金」は6兆円ぐらいでしょうか。財務省の予算査定でこれほど削ったことはない。国会の予算・決算両委員会のチェックの甘さを考えると、相当のインパクトでした。しかし、こうした無駄の削減は、実は仕分け当日の成果でしかない。そして、多くのマスコミは、そのことしか報じません。3年前の第1回仕分け以来、私は「仕分けのシカケ」を、行政機構に埋め込むことに力を注いできました。その成果の一例が「トンデモ復興予算」が見つかったことです。
――復興予算の流用問題をスクープしたのは、NHKの特別番組でした。
加藤 なぜ、あれが見つかったか。それは、仕分けを日常業務化した「行政事業レビュー」の過程で、国の約5千の事業すべてについて、各府省のホームページで全ての情報が公開されていたからです。それぞれの事業の説明をフォーマット化し、A4数枚の「レビューシート」の形にまとめてあります。これさえ見れば復興予算に限らず、税金の使われ方、成果、支払先などが一目でわかる。実は、この「レビューシート」は、この3年間で全ての行政機構の中に仕分けのシカケの一つとして組み込まれたものです。これがNHKのネタ元だったのです。
仕分けの成果は、これまであまり機能しなかった会計検査院や国会の決算・行政監視委員会の背中も押した。例えば会計検査院が指摘した税金の無駄遣いは08年までの10年間の平均は約680億円でしたが、仕分けが始まった09年から3年間の平均は約9340億円になっています。
――11月の「新仕分け」では、報道関係者以外は会場に入れませんでした。
加藤 その代わりネット中継を充実させ、議論に対するツイッターの意見や「判定」を会場にフィードバックしました。ネット視聴者は中継したユーストリームとニコニコ生放送を合わせると3日間で約40万人を超え、ツイート数は約8千、ニコ生コメントは17万を超えた。ツイッターでのコメントは議論が白熱するにつれて内容が濃くなり、レビューシートを引用したものも多く登場しました。最終日のニコ生のアンケートでは、視聴者の8割が、こうしたオープンガバメントの取り組みを評価していました。
日本は世界に先駆けて、国の事業の中身をチェックできる仕組みを手にしていることを、ネット世代の皆さんにわかってもらえたと思う。少しでも多くの人が「レビューシート」を見て、ブログやツイッターで意見や感想を述べるようになれば、復興予算の時以上に政治家や官僚も動かざるを得なくなる。これは画期的な試みでしたね(笑)。
――しかし、政権が代わると仕分けはなくなりませんか。
加藤 混乱する政局の中で、レビューシートの公開や仕分け的な議論が潰されないよう、皆でしっかり見張っていなければ――。私は、この先5年間ぐらいは「政治の時代」と見ています。重要課題は決まらず、バラマキ予算は増え、国の財政赤字は致命的になる。政治家の不始末が続き、そのたびに国政が停滞する。そして、多くのマスコミは、そのすべてをあげつらい、他人事のように批判する。今に始まったことではないが、こんなひどい状況が続くのでしょう。
しかし、誰の目にも、日本は今、この半世紀で最も難しい問題を抱えています。だから、他人事のように政治をクサしている余裕はない。過去50年ほどは、政治家や官僚に任せておいても大丈夫な「幸せな時代」でした。私たちは、それに慣れすぎたのです。だから、今日の政治状況は自業自得というほかない。日本の政治の混迷を打開するには、誰もが自分のために政治に関心を持ち、自分のために政治を「動かす」時代にしなければダメだと思う。
国が行っていることはレビューシートを見ればわかります。私たちが政治の主役になるための道具だては、どこの国より揃っているのです。
――オープンガバメントが鍵ですね。
加藤 オバマ大統領がオープンガバメントを唱え、連邦政府のデータ公開の統一サイトを開設したのは09年。政府情報を国民が用いて、より開かれ、より透明で、かつ効率的な政府を、政府の側から作っていこうというのが世界の潮流になりつつあります。私はレビューシートをデータベース化して、検索性のよいポータルサイトから提供可能にすることが、新政権の課題だと考えています。
ところが、日本のマスコミは仕分けの言葉尻をあげつらい、法的根拠がないと叩く。法的根拠があろうがなかろうが、世の中のためになることなら、世論を喚起して、政治家や官僚に「潰すな!」と論陣を張るべきです。彼らは常に他人事のように上から目線で叩く。世の中の問題に対してほとんど当事者意識が感じられない。
レビューシートは3年前から公開されていましたが、彼らは全く見向きもしなかった。NHKが復興予算の流用を見つけたら、滑稽なくらい殺到した。レビューシートを少し勉強したら、いくらでもスクープできるのに、他人の後ばかり追っている(笑)。記者という名のであってジャーナリストじゃない。万一、仕分けが潰されそうになったら、最初に声を上げるのはネット世界の仲間たちかもしれませんね。