中国「団派、江派、太子党」抗争史観は短絡的

加茂 具樹氏 氏
慶應義塾大学 総合政策学部准教授

2013年1月号 GLOBAL [インタビュー]
インタビュアー 岩村宏水

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加茂 具樹氏

加茂 具樹氏(かも ともき)

慶應義塾大学 総合政策学部准教授

1972年神奈川県生まれ。01年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。08年より現職。制度や政策の変化から中国政治を読み解く新世代の研究者として注目を集めている。

――中国に習近平(シージンピン)総書記をトップとする新たな最高指導部が発足しました。2012年11月の共産党大会(18大)では、胡錦涛(フーチンタオ)前総書記が中央軍事委員会主席から引退するなど予想外の人事が相次ぎました。

加茂 共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会の人事では、胡錦涛の出身母体である共産主義青年団派(団派)のホープの李源潮(リーユエンチヤオ)(前中央組織部長)と汪洋(ワンヤン)(広東省党委員会書記)がそろって落選しました。また、経済通として知られる王岐山(ワンチーシヤン)(副首相)が、党員の腐敗をチェックする中央紀律検査委員会の書記に就任したのも意外でした。

――7人の常務委員のうち団派は李克強(リークーチアン)(次期首相)のみで、あとの6人は江沢民(チヤンツーミン)元総書記に近いと言われます。新政権は長老支配色が強まると予想する向きも多いですね。

加茂 もちろん、そういう見方もできるでしょう。ただ、中国の政治家を団派、江派、太子党などの派閥別に色分けするのは、中国ウォッチャーが便宜上そうしているだけであることにも注意すべきです。

例えば江派と見られる政治家が「自分は江派の一員で、江沢民の命令は何でも聞く」と公言することはありえません。太子党は「党の高級幹部の子弟」という緩やかな概念で、団派や江派と重複する人物が大勢います。

胡錦涛の引退や、李源潮と汪洋が中央常務委に入れなかったことを根拠に、「団派は敗北した」「長老の干渉が強まる」などと説明するのはいかにも短絡的です。仮にそれが真実なら、党は団派とそれ以外に分裂して混乱に陥る。そんな状況は党内の誰一人望んでいないはずですから。

――派閥間の権力闘争ばかりに着目して人事を分析するのは無理があると。

加茂 はい。むしろ共産党が直面する政策課題を出発点に考えるべきだと思います。

共産党の究極の目標は、政権を未来永劫安定して存続させることです。そのためには国を発展させ、国民を物質的にも精神的にも豊かにしなければならない。ところが、近年は貧富格差の拡大や党幹部の腐敗に対する国民の不満が高まり、社会に不安定化の兆しが出ています。

これらの問題に対処することこそ、新指導部の最優先の政策課題です。焦点は、国有企業に集中し過ぎた富を国民に再配分する経済体制改革と、国民を納得させられるような成果を伴った反腐敗政策です。

こうした視点で新指導部を見ると、習近平が最高責任者として旗を振り、経済改革には李克強、反腐敗には王岐山という仕事師タイプのリーダーが全力で取り組む布陣が明確に示されています。また、胡錦涛の引退は長老の干渉をむしろ牽制する方向に働くと見ています。

もちろん、李源潮と汪洋が中央常務委入りすればさらに改革志向が強まったでしょう。しかし、「それでは急進的すぎる」というバランス感覚が党内で働いたのではないでしょうか。それを差し引いても、習近平政権の布陣は意外に手堅いと評価しています。(敬称略)

   

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