六本木クラブ撲殺事件は10年以上続く抗争の一端だった。ようやく警察も「関東連合」壊滅作戦に乗り出したが…。
2013年2月号 LIFE
襲撃事件があったクラブ「フラワー」が入居していた六本木ロアビル
PANA
真冬にもかかわらず真っ黒に日焼けした男が嘯く。「どうせいつもと同じ。殺人(容疑)でなんてパクられるはずない」
昨年9月、東京・六本木のクラブで飲食店経営の藤本亮介さんが目出し帽を被った集団に襲撃、殺害された事件の捜査が難航している。12月、暴走族グループ「関東連合」(解散)の元メンバーら十数人に逮捕状が出て、一部が逮捕されたが、容疑は凶器準備集合罪。警察の狙いは、まず同容疑で逮捕し、その後の自供などをもとに殺人や暴行致死容疑で再逮捕することだろうが、そう簡単ではない。12月中旬には、主犯格と見られる30代男性が警視庁に出頭したが、身柄は解放されている(※その後、他のメンバーと共に逮捕)。
冒頭のように話すのは、関東連合の関係者だ。「バットを持って集まったけれど、クラブには入っていないし、暴行したこともないと言い張れば、凶器準備集合で済む。今回と似たような襲撃事件は数えきれないが、逮捕者が出ることは少ない。過去、殺人に至ったケースでも、殺人や暴行致死では誰も逮捕されていない。今回も同じ」
今回の事件は、関東連合と接点のない藤本さんが人違いで殺害されるという残忍極まりないものだ。警察も手を尽くして捜査を展開しているが、半グレ集団をここまで凶悪化させた一因は、彼らを野放しにしてきた警察の捜査怠慢にもある。
今回の襲撃事件の背景には、関東連合と、新宿を中心に活動したチーマーグループXの元メンバーらによる長年の「抗争」がある。関東連合もXも既に解散しているが、そのOBらは今までも頻繁に暴力沙汰を引き起こしてきた。今回、犯行グループが標的にしていたのは、Xの元リーダーで、元暴力団組員の30代男性Aだったという。
捜査関係者が言う。「事件当日の夜、六本木で関東連合元メンバーの誕生日パーティーが行われており、主だったOBが集まっていた。そこに元リーダーから『Aが(犯行現場になった)クラブに入ったらしい』と連絡が入り、酔って興奮した彼らは襲撃する仲間を集め、六本木の量販店で目出し帽を購入。凶器となったバットや逃走用の車両を用意し、犯行に及んだ」
ところが、実際にはその夜、Aは六本木に姿を見せておらず、背格好が似ていた藤本さんが間違って襲われることになる。「藤本さんは『ちょっと待ってくれ』などと声を上げたが、目出し帽集団は問答無用で藤本さんの頭部を滅多打ちにした」 (同)
なぜAは狙われたのか。一部報道では、08年3月、西新宿の路上で、目出し帽を被り金属バットを持った男数人に、関東連合と関係の深かった30代男性が撲殺された事件の報復だと指摘されている。手口も似ており、亡くなった男性と今回の事件の主犯格と見られる男が親しかったため、そういう側面があることも確かだろう。
だが、5年前の西新宿の事件は抗争の氷山の一角に過ぎず、両者の怨念は深い。今回、逮捕状が出された犯行グループの中心メンバーは30代半ば。彼らは10代半ば頃から近隣の学区内で不良グループを形成し、それが現在に至る結束の元になっている。事実、関東連合とAを中心とするグループの敵対関係は彼らが20代前半だった頃から続いている。これまでほとんど報道されてこなかったが、前出の関東連合関係者が語るように、両者は10年以上にわたり都内各所で、「やった、やられた」の暴力事件、つまりヤクザの抗争紛いなことを繰り返してきたのだ。
今回の事件前にも、予兆となるような事件が起きている。一昨年12月、六本木のキャバクラ店で山口組系暴力団幹部ら5人が約20人の男に襲撃され、1人が意識不明の重体に陥った。住吉会系の暴力団員が中心になって襲撃したため、ヤクザの抗争とも報じられたが、実態は異なる。「襲撃した暴力団員は関東連合傘下の暴走族の元総長であり、襲われた5人の中には、Aの側近と言われる元暴力団員がいた。山口組系の幹部はそこに居合わせただけ。この事件も関東連合とAのグループの諍いが原因だ」(前出の捜査関係者)
警視庁は生活安全部の少年事件課を中心として、十数年前から関東連合の実態解明や、彼らが起こした事件の整理を進めてきた。さらに、近年は不良グループOBの事件捜査を主に担当する組織犯罪対策特別捜査隊、通称「組特隊」も新設している。つまり、警察は関東連合とAのグループが襲撃と報復を繰り返し、それが次第にエスカレートしてきていたことは十分認識していたのだ。
だが、5年前の西新宿撲殺事件の犯人は未だ逮捕されず、一昨年の六本木キャバクラ襲撃事件も、今回のクラブ撲殺事件が起こってから血眼になって捜査し、ようやく襲撃犯を逮捕したという有り様だ。もっと早い時期に一連の「抗争」を徹底的に取り締まっておけば、今回の人違い撲殺事件は起きていなかったのではないか。
遅きに失したが、警察もようやく関東連合OBグループ壊滅に向け本格的に動き出した。彼らの膨張の背景には旺盛な資金力がある。彼らは厳格な上下関係や組織力を活かし、時には暴力性もチラつかせ、様々なビジネスに進出してきた。グループの中心メンバーが 「仕事」を相互不可侵で分担しているのも特徴で、投資ファンド、不動産、芸能、アダルトビデオ、飲食、風俗など合法的な事業だけでなく、仕手株、未公開株や社債詐欺、振り込め詐欺、裏カジノ、企業恐喝などでも彼らの名前は度々挙がる。
そこで警察は、資金源を徹底的に摘発しようと、昨年9月に元リーダーの男を「パチンコ必勝」詐欺で逮捕。他にも、風営法違反や詐欺などで関係者を次 々逮捕している。昨年11月には、関東連合の名を使って金融業者から数千万円を脅し取ろうとしたコンサル会社社長が逮捕されたが(不起訴)、警察が狙っていたのは、背後にいる一時上場企業の代表を務めていた関東連合の大物OBだと囁かれた。
そうした手法には間違いなく暴力団犯罪を取り締まる組織犯罪対策課のノウハウが活かされている。警察はどこまで徹底的な捜査ができるか。今後、半グレ集団がおとなしくなるか、より一層凶暴化するか、その重要な分岐点になりそうだ。