竹山堺市長が「橋下維新」に反旗

「身内」のはずの堺市長が大阪都構想「断固反対」を唱え、再選出馬。どうなることやら。

2013年3月号 POLITICS

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日本維新の会は試練の年明けを迎えた。国会はベテラン議員中心にこなしているが、参院選の選挙協力は難航している。

そんな中、橋下徹共同代表(大阪市長)のお膝元の大阪で厄介な問題が起きている。

4年前、橋下氏が自ら乗り込んで誕生させた堺市長が、橋下維新の看板政策の大阪都構想に「反対」を掲げ、9月の堺市長選に出馬しようとしているのだ。「身内?」の反乱に橋下維新は苦り切っている。

「堺市を三つに分割したり、一つでも特別区として『新府』の従属団体になるような構想には断固反対し、堺市の中世からの『自由と自治』をしっかりと堅持いたします」。これは竹山修身堺市長(62)が自身の後援会のページに書いた年頭あいさつだ。「大阪都などと口にしたくもない」という思いが「新府」という言葉ににじむ。「断固反対」を宣言しただけでなく、「2月市議会で再選出馬を表明する」と踏み込んだ。

堺市「分割」を断固拒否

4年前(2009年9月)、選挙ポスターの中の二人は満面の笑みで両手を握りあっていた。自公民推薦で三選を目指す木原敬介市長(当時69歳)に対し、橋下知事は「部下」(大阪府政策企画部長)の竹山氏を押し立てて戦いを仕掛けた。この年、橋下知事は「府庁移転」で与党の自公と衝突し「水道事業統合」で平松邦夫大阪市長と対立が始まっていた。そんなストレスをぶちまけるかのように橋下氏は街頭に出て「相乗りは談合だ! なれあい選挙だ!」と叫び続けた。人気知事が既成政党をこきおろす姿にメディアが殺到し、ダブルスコアに近い圧勝。無名の新人竹山氏が、大阪市に次ぐ人口84万人の政令指定都市の市長の座を奪った。

統一地方選(11年4月)が1年半後に迫っており、「堺ショック」と呼ばれたこの選挙は、既成政党に強烈な衝撃を与えた。「橋下徹」を敵に回す恐怖に皆が怯えた。一番浮足立ったのが、政権を失ったばかりの自民党の地方議員たちだ。

既に橋下知事と連携を深めていた松井一郎府議(現大阪府知事)のもとに雪崩を打って駆け込み、10年4月、橋下代表・松井幹事長の地域政党「大阪維新の会」が発足する。流れは堺市議会にも広がり、5人の自民党市議が維新に参加した。そのリーダー格が馬場伸幸氏(現日本維新の会衆議院議員)だ。

馬場氏はこのとき市議5期目。副議長も務めた市議会自民党の重鎮だ。木原前市長の信頼が厚く、木原氏が進めたLRT(次世代型路面電車)導入計画や堺東駅前再開発、市民病院移転などの大型公共事業を支援し、市長選ではもちろん木原側。竹山陣営が対抗して「LRT計画の中止」を訴えたため、選挙後の議会では馬場氏は手厳しく新市長を攻撃した。対する竹山市長も、防戦に追われつつ「LRT中止」は譲らない。市民病院移転は受け入れられても駅前再開発は宙に浮きそうだ。前市長派の実力市議と新市長の応酬は次第にこじれ、確執めいてくる。

そんな矢先、竹山市長の頭越しに馬場氏が橋下知事のもとに飛び込む離れ業を見せたのだ。橋下氏との位置関係が逆転した。おまけに馬場氏は維新に移っても与党どころか市長批判を強め、対立を続ける。竹山市長が維新に近づこうにも取り付く島がなかったのかもしれない。

とはいえ両者の対立が決定的になった最大の原因は、竹山市長が大阪都構想を受け入れようとしなかったことに違いない。なぜ受け入れなかったのか。

竹山市長は「市長選のときは大阪都構想はまだなかった」とこぼしているという。確かに、大阪都構想の発表は堺市長選の翌年の3月。大阪維新の会の発足は4月だ。「橋下氏に対する恩義は感じている。だが維新に義理はないし、大阪都構想がこんな厄介なものになるとは思わなかった」と言いたそうだ。事実、構想の発表後、橋下氏と会った時は「基本的な方向性は一緒」と気を使っていた。だが細部が明確になるにつれて懐疑的な発言が多くなる。

竹山市長が最も拒否反応を示しているのは「分割」だ。大阪都構想は基本的には東京都をモデルにしている。大阪市と堺市の2政令指定都市を、大阪市は8区、堺市は3区の「特別区」に再編する。だが問題は、単なる区割りの変更ではなく区議会ができ区長を公選で選ぶことだ。「これでは各区が別々の独立した基礎自治体になり、堺市は消えてしまう」と反発する。

後手に回った「維新陣営」

堺市は06年に政令都市に移行したばかり。やっとの思いで手に入れた都市計画などの「権限」や地方交付税の増額などの「財源」を大阪都に召し上げられてはたまらない、という思いも強い。竹山市長は堺市出身で中学、高校の同窓生も多い。「ものの始まりなんでも堺」。堺市民は「一番」が大好きで、南蛮貿易の頃からの自治・自由の伝統にプライドを持っている。

「堺が自分たちの時代にバラバラに分割され、他地域と同列に都知事に支配されるなんて我慢できない」。そんな市民感情が竹山氏の決断を後押ししたのかもしれない。

さて両陣営の動きだが、竹山市長が出馬表明すれば自民が推薦に回り、民主も同調する見通しと伝えられる。

対する維新側は後手に回っている。実は竹山再選阻止の動きは早く、昨夏には切り札の馬場氏擁立の噂が流れていた。だが馬場氏は衆院選に立候補し当選。代わって、LRT計画復活をめざす青年会議所関係者らの名が浮かぶが、結論は出ていない。

国政では「自公」、大阪市議会では「維公」の協力関係を結ぶ公明党の動きも注目される。

「大阪都構想の是非」を争点に正面から激突することになれば、「橋下人気」か「自治・自由都市のアイデンティティー」かの戦いになりそうだ。どちらが勝っても「民意」が明確になる。大阪都構想と堺市の行方にどんな決着が待っているのか。

   

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