2013年5月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]
宗教学者の島田裕巳氏がネットのアゴラで「幸福会ヤマギシ会」を紹介したら、たちまち2万件の反響を呼んだ。ヤマギシ会といってもピンと来ないかもしれないが、1990年代後半に「カルト集団」として物議を醸した宗教的な団体だ。今ではすっかり忘れられた存在になっているが、思いのほか健在のようだ。
島田氏が注目するのは、ヤマギシ会が、売り上げ規模で日本の農事組合法人のトップに躍り出た点にある。『週刊東洋経済』の「農業法人ランキング」(昨年7月28日号)によれば、ヤマギシ会の本拠地は三重県津市の豊里と伊賀市の春日山にあり、独自の農業共同体を営む。年間売上高は約66億円、約750人のメンバーが共同生活している。全国では26拠点に約1500人のメンバーがおり、外国にも韓国やスイスなど6カ国に支部がある。主として農業と酪農を営み、「実顕地」と呼ばれる広大な敷地の中で静かに暮らしているという。
中心地の豊里では、近隣農家や地元自治体と協力関係を結び、最近ではブランド牛の生産に力を入れ、農産物加工品を全国販売している。かつてのカルト批判は影を潜め、「エコ・ヴィレッジ」の先駆として評価する声も上がっている。
「老蘇」と呼ばれる高齢者の生活・医療は完全に保障され、「子ども楽園村」なる独特の教育(「学育」という)も継続している。モンゴルとも交流があり、モンゴル帝国建国800周年には海外友好団体として大統領からメダルと感謝状を授与された。島田氏によれば、ヤマギシ会の素顔は、『親鸞・ウェーバー・社会主義』の著書のある村岡到氏の近著『ユートピアの模索——ヤマギシ会の到達点』(ロゴス刊)が詳しい。