2014年2月号 LIFE
武雄市図書館(佐賀県)が図書館界の大きな関心を集めている。昨年10月末、パシフィコ横浜で開かれた第15回図書館総合展のフォーラム「“武雄市図書館”を検証する」には、全国から多数の自治体関係者が参加、展示会場の一画を仕切った600席の特設会場は満席となり、立ち見まで出た。図書館界にとって、2013年はとにもかくにも「武雄に明け、武雄に暮れた1年」であった。
同図書館の運営はレンタル大手のCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)。東京・代官山に開いた蔦屋書店で培ったノウハウを生かす。一方、市の狙いは運営費削減と利用者増大、さらには図書館をテコにした地域活性化だ。樋渡啓祐・武雄市長は「図書館に縁遠かった層が次々来ている」と語る。
年中無休、開館時間は朝9時から夜9時まで。20万冊の蔵書の大半は開架で読め、施設内には蔦谷書店も。本や雑誌を買って併設のカフェ(スターバックス)でコーヒーも楽しめる。4月にリニューアル開業して以来、半年間の入館者数は52万人と約4倍に増え、貸し出し冊数も2倍近くに増えた。52万人のうち市民が59%を占める。市外が32%、県外が9%。武雄市の人口は約5万。その10倍以上の人が半年間に利用したのだから、驚くべき現象といえるだろう。
公共図書館は全国に約3200ある。行政改革が進むなかでも図書館の数だけは増え続けてきた。無料であることも手伝い、公共施設のなかではそれなりの利用者数を確保できていたからだ。しかし、自治体財政の悪化、書籍の電子化など図書館をとりまく環境は大きく変わった。そんな中に登場したのが武雄市図書館だった。
先のフォーラムでは、糸賀雅児・慶応大教授が「これまでの図書館のものさしでは測れない。また測ってもいけない。異なった価値を生み出した」と評価しつつ、いくつかの問題を指摘した。一つは、利用者が増えた割に貸し出し冊数が増えていない点。利用者は3・2倍になったのに、冊数は1・6倍。一人当たりの貸し出し冊数でみれば、半分に減った計算だ。
図書館資料の利用率が低いのも問題という。昨年10月下旬に糸賀氏が行った調査によれば、武雄市図書館の場合、図書館資料の利用者は約20%。書店資料の利用者も20%だった(ほかに持ち込み資料など)。これに対し、近隣の伊万里市民図書館の図書館資料利用は57.3%。「閲覧させるより買わせる」狙いがあると勘ぐりたくもなる。糸賀氏は、「図書館というより公設のブック・カフェ」と評する。
図書館資料の利用の低さは、資料の配置方式も影響していそうだ。本の分類を従来のNDC(日本十進分類法)に代えて武雄独自の方式にしており、「使いづらい」「分かりにくい」と市民の反応は芳しくない。限られた面積のなかで開架書棚を拡大したため書棚の上方の段は位置が高すぎ、重い書物を取り出すには危険と指摘する声もある。
そんな声をよそに、すでに宮城県多賀城市、神奈川県海老名市、山口県周南市が「ツタヤ図書館」導入を表明。武雄市では樋渡市長が分館を作る考えを示している。「来館者が満足するかどうかが基本」と自信満々の市長。物珍しさがなくなった今後1、2年で図書館としての真価が問われることになる。