2014年2月号 BUSINESS
高知信用金庫(高知県高知市)が全国信金で過去最高の純利益205億円を記録――。2013年11月中旬、職員数わずか292人の高知県の中小金融機関がひそかに発表した13年9月期の中間仮決算の異様な利益が金融界を驚かせた。中間決算での純利益205億円は横浜銀行、千葉銀行など地銀上位行とも遜色ない水準である。
その異様さはバランスシート上からも確認できる。13年3月期決算では、預金6153億円に対し、貸出金はわずか659億円。さらに貸出金の内訳もほとんどは個人向けのカードローンや住宅ローンで、地元の中小企業向け貸出は残高・件数ともに年々減る一方だ。預金に対する貸出金の割合(預貸率)は、信用金庫業界の平均水準である50%を大きく下回る10.7%という低さ。一方、保有する有価証券は4354億円もあり、うち上場株を1616億円も持つ。集めた預金は金融機関の本来業務の融資にではなく、株や債券の運用に重点的に振り向けているということだ。
その投資先が地元と関係のある企業ならばまだ一定の理解もできるのだが、保有しているのはなぜか電力会社株で、東北電力の第4位株主(13年9月時点)、九州電力の第5位株主(同)、関西電力の第7位株主(13年3月時点)に名を連ねる。中間仮決算での高収益の要因は、この1年で大きく値上がりした電力会社株の影響が大きいと考えられる。事実、株式相場が冴えなかった13年3月期決算では、63億円の赤字を計上している。
さらに、見逃せないのが高額な役員報酬だ。13年度の報酬開示によれば、理事8人に3億6400万円の支払い。退職慰労金を含む数字ではあるものの、報酬も業界トップクラスである。ルノアール、ダリ、ベルナール・ビュッフェなどの錚々たる美術品を多数保有していることがディスクローズ誌では自慢げに紹介されているが、果たしてこれは節税対策の一環なのだろうか。
収益を株・債券の運用益に依存するハイリスク・ハイリターンのビジネスモデルを追求し、勝った負けたを延々と繰り返す、この類いまれな「博打金融ビジネス」を確立させたのは、官僚OBの山本正男会長。11年に理事長を退任し、後任には金融業界では異例の女性トップとなる山崎久留美が就いた。
預金が増え、貸出金が減り、有価証券の保有ばかりが増える傾向は年々強まる。永続性に疑問符が付く経営ではないかと思えるが、金融庁が金融機関に求める「5~10年後の将来を見据えた経営戦略」は果たして描けているのだろうか。金融庁も監督・検査上、何らかの問題意識は感じているとみられるのだが、ある四国財務局長OBは「(地域金融機関の本来の使命である)中小企業向けの貸し出しを伸ばして欲しいとお願いしてきたが、いっこうに改善されなかった」とこぼす。
この高知信金、歪(いびつ)な経営手法に後ろめたさがあるのか、本誌の取材を一切拒否した。ホームページでの情報開示も不親切極まりない。いうまでもなく、儲けを追求せず、地域社会を支えるのが信用金庫の存在意義だ。外部への露出を避け、地元を軽視する「山椒魚ファンドビジネス」をやめるつもりがないのなら、金融機関の看板はとっとと下ろし、新しく投資運用業でも始めたらどうか。(敬称略)