2014年4月号 連載 [いまここにある毒]
やっぱりそうか。ソチ冬季五輪の開会式で、五つの巨大な雪の結晶のオブジェの五輪マークが四輪になってしまったが、あの“咲かない”一輪はウクライナ政変の予兆だったのか。五輪中継をよそに、毎晩ひたすらワシーリー・グロスマンの小説『万物は流転する』の邦訳を読んでいた。主人公イワンが29年ぶりにシベリアのラーゲリから釈放され、スターリン没後のロシアをさまよってどこにも受け入れられず、故郷ソチの茫々たる海辺に帰りつく結末が哀しい。その寡黙な旅で知った女が、1930年代初めのウクライナ大飢饉の惨状を語りだす。富農を撲滅して生産量が落ちた「穀倉」に過大な目標を強い、達成できないと隠匿を疑って種籾まで村々から奪い、数百万人から一千万人という餓死者を出した。スターリンの人災は、この作品ではじめて封印を解かれたのだ。1991年のソ連崩壊後も、ロシアはウクライナを手放せない ………
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