豪レアアース鉱山「破綻寸前」 200億円パーで経産省真っ青

日本を手玉に取ったが、住民の反対と相場低迷で崖っぷち。「盗っ人に追い銭」を許すな。

2014年5月号 BUSINESS

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知らぬは大臣ばかりなり。3月26日、WTO(世界貿易機関)は中国政府によるレアアース(希土類)など鉱物資源の輸出規制が協定違反に当たるとの判断を下した。「国内産業を不当に優遇している」として米国、欧州連合(EU)、日本が共同提訴していたもので、主張が全面的に認められた格好だ。これを受け、茂木敏充経済産業相は「我が国が得た大きな成果であり、WTOの判断を歓迎する」という談話を発表した。

呑気なものだ。皮肉にもこの“勝利”が、経産省が税金200億円を投じた国策プロジェクトの息の根を止めかねないことを、茂木大臣はご存じないのだろう。外郭団体の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が豪州最大のレアアース鉱山、マウントウェルド鉱山の開発会社であるライナスに行った出融資のことである。

3月11日、オーストラリア証券取引所に上場するライナスは2013年7~12月期の半期報告書を発表。「向こう12カ月以内に新たな資金調達を行うか、債務返済の繰り延べをしなければ資金の余裕がなくなる」と、投資家に注意を喚起した。

ライナスの金庫は空っぽ

実際、同社の台所は火の車だ。半期決算では売上高1460万豪ドル(約13億9千万円)に対して5930万豪ドル(約56億6千万円)もの純損失を計上。手元の現金および等価物は昨年末時点で7470万豪ドル(約70億9千万円)しかなく、6カ月前に比べ半減した。しかも、9月末には借入金のうち3500万ドル(約35億7千万円)の返済期限が来る。向こう12カ月どころか、半年後に破綻してもおかしくない崖っぷちなのだ。

ライナスは西オーストラリア州で採掘したレアアース鉱石を選別し、マレーシアに建設したライナス・アドバンスト・マテリアルズ・プラント(LAMP)に輸送。そこでレアアースの分離・精錬を行い、欧州や日本のユーザーに売り込んでいる。だが、後述する地元住民の反対運動でLAMPの稼働が遅れ、さらにレアアース相場の低迷が追い打ちをかけた。

LAMPは年間1万1千トンの生産能力(レアアース酸化物換算)を持つが、今年1~3月の生産実績は1089トンと稼働率は4割にとどまる。出荷量は751トンと、生産の7割しか売れていない。「作れば作るほど赤字と不良在庫が積み上がる泥沼状態だろう」と、レアアースを長年取り扱うベテラン商社マンは見る。ライナスは6月末までにLAMPをフル稼働させるとしているが、「絵に描いた餅」ではないのか。

そんなライナスに、JOGMECは商社大手の双日と共同で総額2億5千万ドル(当時の為替レートで約200億円)を出融資している。11年3月にJOGMECが2億3500万ドル(94%)、双日が1500万ドル(6%)を出資してSPC(特別目的会社)を設立。そこから2500万ドルを投じてライナス株を1株当たり2.12豪ドルで取得し、残り2億2500万ドルは同社資産を担保に融資した。その見返りに、ライナスが年間8千~9千トンのレアアースを双日を通じて日本に供給するというスキームだった。

これは、経産省が10年10月に発表した「レアアース総合対策」に基づく国策ファイナンスである。同年9月、沖縄県尖閣諸島沖で起きた漁船衝突事件への報復措置として、中国はレアアースの対日輸出を一時ストップ。日本の産業界はパニックに陥り、買い付け殺到でレアアース相場は暴騰した。

慌てた経産省は、補正予算などで1千億円を超える対策費を計上。うち540億円を中国以外の海外レアアース鉱山の権益を確保する予算にあてた。その一部がJOGMECを通じてライナスに出融資されたのだ。

「ライナス経営陣は手練手管の山師。経産省は焦って手玉に取られた」。事情に詳しい業界関係者はそう断言する。

経産省の最大の失態は、LAMPに対する地元住民の反対運動を軽視したことだ。実はレアアースの精錬工程では、化学的性質が似たトリウムやウランなどの放射性元素が一緒に濃縮されてしまう。それによる放射能汚染を懸念した住民グループが、マレーシア政府や裁判所に建設中止を訴えていた。

背景には、1980年代に日系企業がマレーシアで起こした別の放射能汚染がある。三菱化成(現三菱化学)の実質子会社だったエイジアン・レアアース(ARE)がトリウムを含む廃棄物を不法投棄し、地元の村で白血病や異常出産などが多発したのだ。村民が起こした訴訟では放射能汚染と健康被害の因果関係こそ認められなかったが、三菱化成はAREの閉鎖と巨額の除染費用の負担を迫られた。

ろくに調べずに出融資

「日本政府がライナスに資金を出せば、住民感情を逆撫でするのが見えていた」と、前出の関係者は話す。ところが、経産省は「問題ない」というライナスの説明を鵜呑みにし、ろくに調べもせず出融資を認めた。

案の定、反対運動の高まりでLAMPに対するマレーシア政府の操業許可は1年以上遅延。その間にレアアース市場は落ち着きを取り戻し、上がり過ぎた相場は一転暴落した。昨年2月、LAMPはようやく操業にこぎ着けたが時すでに遅し。「ライナスの価格は中国産より高く、品質は逆に低い」と関係者は口をそろえる。本誌が日本での販売実績をライナスと双日に問い合わせると、両社は「公表していない」と回答を拒んだ。

現在、中国政府はレアアースの輸出に15~25%の輸出税をかけ、輸出量の上限枠も設けている。だが、冒頭のWTOでの敗北を認めて輸出税と輸出枠を撤廃したら、レアアース相場はさらに2割前後下がると見られている。瀕死のライナスにとって、とどめの一撃になるだろう。

経産省はどうするのか。放置すればライナスは破綻し、血税が元手の出融資が毀損してしまう。しかし日本の納税者にとって最悪のシナリオは、同社の破綻ではない。ライナス経営陣が融資返済の延期と追加投資を要請し、問題を先送りしたい経産省がそれに応じることだ。

本誌がJOGMECに返済延期や追加投資に応じる考えがあるか質すと、「要請は受けておらず、仮定の話には答えられない」(広報課)という。「盗っ人に追い銭」は許されない。

   

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