2014年9月号 BUSINESS
明治安田生命保険が地方公務員向けの団体保険で、自治団体職員の労働組合との不透明な関係を背景に繰り広げる「裏ワザ」営業については本誌が2013年10月号で報じた通りだが、新たに明治安田と巨大労組との親密な関係が明らかになった。約24万人の組合員を抱え、単一労組としては国内最大の日本郵政グループ労働組合(JP労組)だ。
JP労組は、対立関係にあった日本郵政公社労働組合(全逓)と全日本郵政労働組合(全郵政)が、郵政民営化に際して団体交渉力を強化するため、07年に大同団結して誕生した。両組合の共済商品も09年に整理統合され、全郵政の大型生命共済「きずな」が存続することになった。そこで旧安田生命時代から全郵政に食い込んでいた明治安田が営業攻勢をかけ、保障性団体保険は半分を明治安田が単独で引き受け、残る半分を明治安田が事務幹事を担う形で複数社が共同で引き受けることになった。
本誌13年10月号でも紹介したが、この単独引き受け型商品は、加入者が支払う見掛け上の保険料は安いが、配当金が少ないため実質的には割高になる上、保険会社が団体に支払う手数料は少なくて済むという明治安田にとっての「ドル箱商品」(業界関係者)だ。共同引き受け型には、第一、住友、富国、三井住友海上あいおいの4生保も加わっているが、明治安田以外のシェアは微々たるもの。総保険金額約1.2兆円のうち明治安田のシェアは97%にも上る。
明治安田生命広報部は「当社が提供する団体保険の企画・提案やお客さまサポート態勢等が評価されている証左。お引き受けしている商品はお客様が当社を含め、様々な企画・提案の中からご採用いただいたもの」と、本誌の質問状に回答した。しかし、こうした特権的な営業は、明治安田がJP労組OBを非常勤の顧問として受け入れていることと無関係ではあるまい。
明治安田は「個人のプライバシー」を理由に詳細を明らかにしないが、受け入れたJP労組OBの人数は15人程度に上り、「日本郵政グループでは平社員でも、明治安田では週1回の勤務で月15万円の報酬が得られる」(関係者)と囁かれる。破格の待遇は「明安年金」と揶揄されており、受け入れているのは基本的に全郵政のOBというから、融和を掲げる組合内部に怨嗟の声が渦巻くのは当然だ。「上野にあるJP労組本部の委員長室には、明治安田寄贈の超大型液晶テレビが設置されていた時期もあった」と親密ぶりを物語る目撃談もある。
それだけではない。明治安田は08年度に従業員をJP労組の特別中央執行委員として1年間派遣している。組合の意思決定会議にも参加する立場にあり、「民営化時期に日本郵政グループの重要な経営情報が明治安田に筒抜けになっていた疑いがある」(前出の関係者)。
明治安田の松尾憲治社長(現在は特別顧問)は生命保険協会長時代、業務拡大を志向する日本郵政グループ傘下のかんぽ生命保険に弱腰で応じ、民間生保から不満の声が上がったが、明治安田とJP労組は強い「きずな」で結ばれていたのだから無理もない。
日本最大の労組が特定の組合員のために大多数の組合員に不利益を強いているとしたら、ガバナンスの欠如はいささか深刻と言わざるを得ない。