次期支援戦闘機「FS-X」の恨みを晴らす企てに、米国が猛反発。4兆円の軍需利権に虎視眈々
2014年11月号
BUSINESS
by 瀧村荘一(軍事ジャーナリスト)
来年1月に初飛行予定のATD-X試作機
世界最強のステルス戦闘機、F22ラプター
「集団的自衛権行使の容認」「武器輸出・共同開発解禁」と、次々に安全保障分野での「自立性拡大」を進めた安倍政権。今度は「国産ステルス試作機、来年1月に初飛行」と発表した。先端兵器の象徴である航空機開発分野でも対米自立を際立たせようとしている。
ステルス機とは、照射されるレーダー波をそらし吸収する形状・材質を取り入れることで敵の探知をかわし、相手陣営の監視・指揮ポイントを狙い撃つ攻撃・戦闘機である。米国はもとより、中国、ロシアなど世界各国が開発競争を繰り広げている。
北東アジアで数的に優勢な航空兵力を持つ中・ロと対峙する我が国にとって、ステルス機が命運を左右すると言っても過言ではない。当面、42機のF35ステルス戦闘機(米英などの共同開発)導入が決まっているが、より高性能の国産ステルス戦闘機の導入が期待される。
「国産ステルス試作機」、即ち先進技術実証機(ATD-X)は、2000年度から旧防衛庁技術研究本部(TRDI)が手がけたステルス技術研究の成果を受け、09年度以降、総事業費392億円が計上され、具体化されたものだ。三菱重工が試作機製作の委託を受け、主翼等は富士重工、コックピットを川崎重工、エンジンをIHIが造り、素材としては炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が大幅に導入され、我が国の最先端技術を担う企業1千社が参画するプロジェクトになった。細かいパーツを含めた構成品の国産化率は95%だ。
実は、このプロジェクトの原初は1995年に遡る。この年、TRDIは、新世代戦闘機の国産開発のベースとして「実証エンジンの研究」を開始した。背景には80年代半ば、日米の確執を生んだ「FS-X(次期支援戦闘機)問題」が、不本意な「日米共同開発」として決着した、苦い経験があった。
米国は、日本の航空産業より技術的優位に立っていた戦闘機用の大出力エンジンの供給を拒むことで、国産を前提にしていた日本のFS-X計画を、自国製F16戦闘機ベースの共同開発に強引に方向転換させた。
95年は、日米共同開発で完成した、後のF2試作機が初飛行した年である(配備開始は00年)。ATD-X計画は、頓挫させられた「国産FS-X」の恨みを晴らすかのように95年にスタートしたのだ。
とはいえ、ATD-X計画でも「要所」に来ると、日米確執が露わになった。05年、TRDIが製作したATD-X模型機(実物大)によるステルス性能試験の実施に当たり、米国が日本からの試験施設利用要請を拒否したのだ。実は、この前年、旧防衛庁が実験機体製作と試験の予算130億円を計上した時、米側は内々に「機体製作は望ましくない」と伝えてきていた。
結局、ATD-X模型機のステルス性能試験は、フランス国防省整備局の特殊電波試験施設を借りて行われることになった。その結果は「米国が実用化したF22には及ばないが、まずまずのステルス性能が確認できた」と、防衛省関係者は言う。米国の意向を無視して駒を進め、遂に試作機の飛行試験にたどり着いたわけだ。
1980年代のFS-X国産化が頓挫する原因となったエンジン供給問題は、ATD-Xではどうなっているのか。ここに来て米国は再び「日本への(戦闘機用)大出力エンジンの供給はしない」と表明している。
ATD-X試作機に搭載されるエンジンは、IHIが開発したXF5-1エンジン(推力5トン)2基。ステルス性能を重視した機体の運動性を補うため(しばしばステルス性能の追求は空力設計上の桎梏となる)、各エンジンの噴射方向を偏向させる推力偏向パドルを備える。
ATD-X機は、推力偏向パドルを備えたエンジンと、機体に備えた操舵機構の制御を統合した合飛行推進力制御(IFPC)システムを持つ。これによって、通常なら失速・制御不能となるような急角度での上昇・降下や旋回が可能だという。
しかし、XF5-1エンジン2基による推力10トンでは、実用ステルス機には「全く足りない」との指摘がある。
「世界最強のステルス戦闘機」とされるF22ラプターは、推力15トンのF119エンジン2基を備える。合計推力30トンの大出力により、良好な運動性能と高速機動・長距離行動力、ステルス性能を、うまく調和させることに成功している。
もっとも、ATD-Xは実用機として完成されるのではなく、あくまで技術検証機だ。防衛省は「本機で得られたデータを基に18年までに実用的なステルス戦闘機を開発するかどうか判断する」と説明している。
大出力エンジンについてもTRDIは「推力10トン以上のエンジンを開発できるメドは立っている」と言う。しかし、戦闘機用大出力エンジンの国産開発には1兆円を超えるカネがかかる。長期プロジェクトとはいえ、先行きは不透明だ(15年度概算要求で400億円が計上され、IHIが試作着手の見込み)。
国産開発になったとしても、米議会が「海外輸出禁止」を決めたF22のエンジンより推力はだいぶ劣り、搭載機の性能も、それ相応にとどまる。
純国産となるかはともかく、現在のF2戦闘機が引退し始める30年代までに後継戦闘機(F3)を実用化する必要があり、当然ながら、第6世代のステルス機となる。中国の軍事的台頭と海洋拡張が際立つ今日、安全保障上の空白は作れない。
防衛省は、仮にF3がほぼ純国産となった場合、ライフサイクルコストを含めると4兆円の新規需要を創出し、24万人の雇用創出効果があると試算している。技術開発面でも、漸く独自の旅客機開発・供給に乗り出した我が国の航空産業への大きな貢献が見込まれる。
一方、米国の日本による「国産戦闘機」への反発は、莫大な経済的利益から排除されることへの警戒にほかならない。かつての「FS-X問題」が再び火を噴く条件が揃っている。