合併した「損害保険ジャパン日本興亜」の生保子会社の正式名称は22文字。「何とかしろ!」と苦情が殺到。
2015年1月号 BUSINESS
損保ジャパン日本興亜の二宮雅也社長
Jiji Press
「安心のために できることのすべてを」というスローガンが本当なら、まず顧客無視の社名を考え直すべきだ。9月に損害保険ジャパンと日本興亜損害保険が合併して発足した「損害保険ジャパン日本興亜」グループ各社に対し、「社名が長すぎる」との批判が殺到している。
合併新会社の名前も充分長いが、持ち株会社の名前は「NKSJホールディングス」から「損保ジャパン日本興亜ホールディングス」へと6文字も長くなった。一足先に合併済みの生命保険子会社の名前も「NKSJひまわり生命保険」から「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」になり、「株式会社」の4文字を加えた正式名称は実に22文字。年末調整の時期には「保険料控除の記入欄に社名が書ききれない。何とかしろ」という苦情が同社に相次いだ。
ネット上でも「ジャパンの後に日本と続けるセンスを疑う」「寿限無損保のほうがまだましだ」などと評価は散々。同社はジャニーズのタレントが長い社名を書いた看板を持って「♪そんぽじゃぱん~にっぽんこうあ」と歌うCMを大量に流して新社名のPRに努めたが、「自動車保険料を上げておいてくだらないCMに使うな」と、契約者を怒らせただけだった。
生保子会社は11月、公式サイトのFAQページで「ご不便をおかけして申し訳ございません」と謝罪し、保険料控除の申請書類では便宜的に「SJNKひまわり生命」と記入するよう呼びかけた。持ち株会社についても今後は短く、分かりやすくするため「SOMPO(そんぽ)ホールディングス」という略称を使うという。だが、「SJNKひまわり生命は正式な略称ではなく、保険料控除申告書のご記入にあたり、便宜上ご使用いただくもの」で、SOMPOの略称も持ち株会社とグループ全体でしか使わない。
損保ジャパン日本興亜ホールディングスはSOMPOホールディングスと呼び、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命はSOMPOひまわりでなく旧社名のNKSJひまわりでもなくSJNKひまわり生命と略すが、それは正式な略称ではないということらしい。ちっとも短くも、分かりやすくもなっていない。本当に申し訳ないと思うなら社名を変えるしかないことはもはや自明なのに、なぜバカげた社名にこだわるのか。
長い社名は両社が合併を重ねてきた再編の産物でもある。損保新会社は安田、日産、大成、日本、興亜火災の5社の連合体。生保子会社はさらに複雑で、別図のように外資系のINA生命を母体に、損保の生保子会社が何度も合併して出来上がった。
損保ジャパン出身の幹部は「合併の際に旧社名が消えると顧客から不満が出る。損保ジャパンの発足時に旧社名(安田、日産、大成)をすべて消したのは失敗だった」と振り返る。
しかし、だからやむなく長すぎて不便な社名にしたのだ、というのはとんだ屁理屈だ。近々もう一段の再編が予定され、今の社名はそれまでのつなぎだというなら我慢もするが、そんな話は一向に聞こえてこない。
本当の理由は、社名を1字でも略そうものなら、合併自体が壊れかねないためではないか。日本興亜出身の幹部は「持ち株会社方式での経営統合から合併まで4年以上の準備期間があったのに、両社の融和は進んでいない」と証言する。
金融再編が始まる前、日本火災と興亜火災は当初、三井海上火災を核にした3社統合を目論んでいたが、三井住友銀行の誕生を見た三井海上は統合相手を住友海上火災に鞍替えしてしまう。仕方なく2社だけで合併して日本興亜となったが、筆頭株主だった米系ファンドからさらなる再編を求められ、国内首位を目指す損保ジャパンからのラブコールを受けて、再び仕方なく経営統合した経緯がある。
一方の損保ジャパンは念願の国内首位を達成するため、統合から合併に進むことを熱望した。10年4月の統合直後、第一生命との提携を強化したのもその布石。日本興亜が親密だった明治安田生命の影響力を排除し、合併後の主導権を握る狙いがあったとされる。
だが、この一件に損保ジャパンの業績悪化が加わって、日本興亜は損保ジャパンへの不信感を強めていった。前出の日本興亜出身幹部は「米国での再保険契約の失敗、保険金の不払い発覚など、統合後に失点を重ねたのはみな損保ジャパン。おかげで3年連続で希望退職を募るはめになった。日本興亜側には被害者意識が強い」と打ち明ける。
こんな状態で日本興亜の社名を消せば、両社の溝は亀裂になりかねない。長い社名は「これまでのことを反省し、合併後は旧日本興亜の社員を大切にする」という損保ジャパンの日本興亜に対する詫び証文で、うかつに短くできないのだ。
再編を繰り返した日本の金融機関は、多かれ少なかれ同じ問題を抱えており、損保ジャパン日本興亜のバカげた社名や略称を笑えない。8年以上も長い行名を放置したままの三菱東京UFJ銀行や、三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保を傘下に持つMS&ADインシュアランスグループホールディングスは他人事と思わないでほしい。作家の曾野綾子さんは3月、産経新聞のコラムで「三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券」の広告を見た時の感想をこう書いている。
「合併の時、皆の顔を立てたのだろうが、およそ利用者の都合を無視したものだ。こういう名前のつけ方こそ、自分勝手な、およそ利用者に優しくない命名の思想である」