代表選手「情実選考」で卓球界が大混乱

石川・平野早ペアが世界選手権から落ちたのは、村上代表監督のあからさまな身贔屓。

2015年4月号 LIFE

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1月の全日本選手権女子ダブルスで優勝した石川佳純(右)、平野早矢香ペア

Jiji Press

ダブルスタンダードは不正の温床――。多用すると組織は疑心暗鬼から弱体化し、やがて対外的信用を失って滅びる。

日本の女子卓球界が大混乱に陥っている。元凶は日本生命卓球部監督で、日本女子代表監督を兼務する村上恭和氏ら日本卓球協会の幹部たち。彼らにかき回されて、泣かされているのは、12年のロンドン五輪で日本卓球史上初の銀メダルを獲得した石川佳純(全農)、平野早矢香(ミキハウス)ら卓球界のスター選手だ。発端は今年1月の全日本選手権後に行われた世界選手権代表の発表。全日本選手権ダブルスを連覇した石川、平野早組が15年世界選手権ダブルス代表から落選するという不可解極まる椿事が起きたのだ。

ダブルス代表に選ばれたのは若宮三紗子(日本生命)・福原愛(ANA)組と、14歳ペアの平野美宇(JOCエリートアカデミー)・伊藤美誠(スターツ)組。平野美・伊藤組は全日本で石川・平野早組に直接対決で敗北、若宮・福原組は全日本に出場すらしていない。

代表選考を透明化せよ!

日本卓球協会の選考基準は極めて曖昧だ。シングルス代表の選考基準は「全日本優勝者」「世界ランキング上位者」などだが、若干名を協会の強化本部の推薦で選ぶことが可能。ダブルスはさらに曖昧で、選手とペアリングを強化本部で決められる。その結果、全日本を連覇し、世界ランキングでも上位(石川5位、平野早15位に対し平野美51位、伊藤38位、若宮27位)の組が落選したのだ。2人を落とした理由として村上監督が後付けで挙げたのが「国際ツアーの戦績」。石川・平野早は、全日本の優勝ペアが世界選手権代表に選ばれてきた過去の経緯から全日本も重視。一方、14歳ペアと若宮・福原組は国際ツアーに数多く参戦。しかし、石川・平野早組と共に出場した大会では、石川・平野早組よりも上位の成績を残せなかった。もし協会が国際ツアー重視を事前に公表していたら、当然、石川・平野早組も国際ツアーの実績をもっと重ねていた。要はすべて後付けの屁理屈。これでは選考したい選手が決まっており、後付けの理屈で評価基準を捏造したと、酷評されるのも無理はない。

村上監督のダブルスの選考理由を要約すると次のようになる。

14歳ペアは国際競争力と潜在能力がある。14歳ペアと若宮・福原組は、台に接近してプレーして短時間に勝負をつけるタイプで、パワーのある中国勢などの海外勢と戦うのに有利。一方の石川・平野早組は台から離れて立って長いラリーを行うタイプで、パワーのある相手と戦うのに不向きである。

だが、石川・平野早組は12年ロンドン五輪でもダブルスを組んで準決勝のシンガポール戦でストレート勝ちしており、国際競争力の実績から言っても、申し分がない。そもそも、ラリー型の石川・平野早組に全日本で負けた14歳ペアが、中国相手に勝てるか。村上監督の説明は合理性に欠け、説得力がない。

関係者によると、今回の代表選考は、村上氏のほか、日本卓球協会の星野一朗強化本部長ら一握りの幹部が決め、理事会はそれを追認しただけという。

星野氏は「JOCエリートアカデミー」統括の立場で、村上氏は日本生命の監督だ。その2人が選考に加わり、日本生命所属の若宮、JOCエリートアカデミー所属の平野美がダブルス代表に選出された。2人が自分のチームの選手を優先したと勘繰られても仕方あるまい。

身贔屓以外に、もう一つ、不透明な選考の背景にあると見られているのが日本スポーツ振興センター(JSC)からの助成金を巡る騒動だ。

13年3月、JSCは選手・指導者スポーツ活動の助成金に関する調査を行った。全柔連がJSCの助成金を不正受給していたことが発覚、他のスポーツで不正受給が行われていないか調べるためだった。

JSCの助成金実施要領を見ると、助成対象者はJOC認定のオリンピック強化選手と専任強化スタッフで、後者については「当該選手のスポーツ活動に対して日常的に指導等を行う者に限る」と書かれている。だが、この調査票の「指導者欄」の記載について、村上氏は、なぜか平野早が一度も指導を受けたことがない卓球協会の女性スタッフ(今年1月現在は「JOCエリートアカデミー」サポートスタッフ)を指導者欄に書くよう、平野早に指示した。

これに対し平野早は、所属するミキハウス卓球部監督らと相談の上、村上氏から指示を受けた経緯と、この女性に今まで一度も指導を受けたことがないことを正直に書き、指導者欄が空白の調査書をJSCに提出した。果たして、これが平野早の代表外しに関係していないのか。

こうした不透明な代表選考を問題視し、改善を求めているのがミキハウスの木村皓一社長だ。木村氏は2月以降、卓球協会の藤重貞慶会長、星野強化本部長と相次いで会談、代表選考の透明化を直談判、3月上旬には藤重会長宛てに要望書を提出した。その真意を木村氏はこう語る。

「選手があまりに可哀想」

「私は卓球がマイナースポーツの頃から、いずれは世界相手に戦える選手をと願い、ミキハウスに卓球部を作って選手を育ててきました。福原愛は小学生の頃から、石川佳純も中学、高校の6年間、ミキハウスで厳しい練習を重ねてきた選手です。現在卓球部には、日本のトップクラスの中高生や社会人が30人ほど所属し、ライバルたちと日々、厳しい競争を重ねています。

ところが今回の世界選手権の代表選考では、厳しい競争を勝ち抜き、名実ともに女子ダブルスで日本のトップの石川、平野早組が外されるという異常事態が起きました。日本選手権優勝ペアが代表に選ばれてきた過去の選考と明らかに矛盾しています。同じようなことは女子ダブルス以外でも起きています。

星野強化本部長は私と会ったとき『決して日本生命の選手らを優遇していない』と話していました。しかし結果的にここ数年、日本生命の選手らが日本代表に選ばれており、偶然とは思えません。少なくとも実業団に母体を持つ関係者は選手選考やナショナルチームの運営に関わるべきではないと思います。選考はオープンが原則。たとえば全日本選手権などの一発勝負の大会に出て、勝った者が選ばれるようにすれば誰もが納得します。もしミキハウスの選手が、今回のような不透明な選考で代表に選ばれたら、私なら代表を辞退するように言います。いまの選考の仕方だと選手があまりに可哀想です」

李下に冠を正さずである。

   

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