「不動産流通革命」の旗手たち

ネット証券の台頭で株式取引手数料が下がったように、不動産仲介手数料の価格破壊をリード!

2015年10月号 BUSINESS [「IT技術」で価格破壊]

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ヤフージャパンとソニー不動産の「不動産売買プラットフォーム」予告サイト

IT企業の相次ぐ参入により、今後、不動産業界に激しい競争が巻き起こりそうだ。

ヤフーとソニー不動産は7月7日、業務・資本提携を発表した。これによりソニー不動産への出資比率は、ソニー不動産が56.3%、ヤフーが43.7%となる。ヤフーとソニー不動産は「不動産流通革命プロジェクト」を掲げ、中古不動産流通の活性化を目指す。

ヤフーでは「ソニーが保有するスマートロックなどのあらゆるものがインターネットに繋がるIоT(Internet of Things)技術を使うことで、不動産取引に新しい選択肢を提供できる」(山口隆志・Yahoo!不動産サービスマネジャー)と提携の目的を語る。

その最初の取り組みが、不動産の売り手と買い手が個人間で取引できるサービスである。

年内を目途に、国内最大級の不動産サイト「Yahoo! 不動産」の中に「不動産売買プラットフォーム」を構築。売り主は、自ら売却価格を決めて物件情報を無料で掲載することで、仲介会社を使わずに買い手を探すことができる。

後述する物件価格の自動査定ツールを使うことで、売り手は所有する不動産価格の推移を見ながら、好きな時に売り出すことが可能だ。

国交省が「IT化」社会実験

売買に伴う事務手続きはソニー不動産が行う。法律上、仲介手数料の上限額は取引価格の3%+6万円(物件価格400万円超の場合)と定められているが、ソニー不動産は業務内容によって複数の仲介手数料体系を設けるとみられる。

まずは都心6区(千代田、中央、江東、港、渋谷、品川)の中古マンションを対象に取り扱いを開始し、半年以内に23区へ拡大する計画だ。

こうした個人間取引はFSBO(For Sale By Owner)と呼ばれ、すでに米国では中古不動産市場全体の約2割を占めていると言われる。ヤフーは「首都圏の中古マンション取引の1~2割のシェアを狙う」(同)と期待を高めている。

FSBO市場を狙うのはヤフー・ソニー不動産だけではない。

不動産ベンチャーのハウスマートは今年2月、個人間で中古マンションを売買できる会員制の無料サイトを開始した。

東京と神奈川の中古マンションを対象に、売り主と買い主をマッチング。ハウスマートは登録物件の調査、重要事項の説明、売買契約、住宅ローン斡旋、決済などを行う。

売り主の仲介手数料は無料とすることで、売り物件の登録数を拡大する。また、従来の不動産企業に比べて店舗運営費や人件費や広告費などのコストが格段に低いことから、買い主からの仲介手数料も取引価格の1・5%と、通常の半分だ。サイトを立ち上げてからわずか半年だが、登録している買い主の数はすでに1500人に上っており「毎月2~3割の増加が続いている」(針山昌幸・ハウスマート社長)。

その他、ミスミ創業者の田口弘会長が経営するエムアウトも不動産の個人間取引のプラットフォーム事業を検討しており、年内を目途にサービスを開始する見込みだ。

このように新規参入が増えている背景には、政府による中古不動産流通の活性化方針がある。

国土交通省によると、国内の全住宅流通量に占める中古住宅の割合は約13.5%に過ぎず、欧米主要国に比べれば6分の1程度と圧倒的に少ない。今後、人口減少で住宅ストック市場の縮小が不可避の中、政府は2020年までに中古住宅の流通・リフォーム市場の規模を20兆円に倍増する目標を掲げている。

その起爆剤の一つがITの活用である。

国交省は8月末、不動産取引のIT化に向けた社会実験を開始した。不動産会社が顧客との契約時に行う重要事項説明をテレビ電話などインターネット経由で行う。こうした不動産取引に係るITインフラの整備は、IT企業にとって追い風となる。

「不動産情報」を透明化

IT企業の参入で期待されているのが、不動産取引の不透明性の解消だ。

通常、売り手が所有物件を査定に出すと、不動産仲介会社によって査定価格はバラバラ。不動産仲介会社の中には、およそ買い手がつかないような高値査定で売り手と仲介契約し、その後、「買い手が見つからない」などといって査定価格を引き下げるようなモラルのない企業も少なくない。

ネクストが運営する「ホームズ・プライス・マップ」の予告サイト

この価格の不透明性に一石を投じたのが不動産情報サイト運営のネクストだ。

同社は7月末、首都圏の中古マンションの売却想定価格を算出する「ホームズ・プライス・マップ」を10月に開始すると発表した。

会員登録などは不要で、知りたい物件名などを入力すると、地図上に価格が表示される。同社で過去に掲載された中古物件の募集情報などをもとに、独自のロジックで算出システムを構築した。

また、求人情報サイト運営のリブセンスも8月下旬、不動産仲介事業への参入を明らかにし、最初の取り組みとして物件の想定売却価格の自動査定サイトを設置した。

ユーザーがマンション名などを検索画面に入力すると、部屋ごとに現在および過去の売却想定価格の推移や、検索物件の近隣にある類似物件の売買・賃貸履歴などが表示される。

「不動産仲介企業は、囲い込みの問題などを含めて、いまだに消費者からのイメージが悪い。それゆえに変化を起こす余地は大きいし、変える甲斐のある業界だ」(村上太一・リブセンス社長)として、IT技術を使い、新たな不動産仲介事業のモデルを構築する。

すでに米国では同様の不動産情報を提供するジローなどがあり急成長している。日本でも不動産情報の透明化にかかわるサービスを行うIT企業がさらに増えてきそうだ。

百花繚乱「価格破壊モデル」

他にも多くのIT企業が不動産仲介の領域に参入しており、異なる事業モデルで競い合う。

インターネット特化の不動産会社であるマンションマーケットは8月17日、マンション売却サービス「マンションマーケット」を開設した。

実店舗をもたず、店舗家賃などの固定費を大幅に縮小できるため、仲介手数料は取引価格にかかわらず一律の49万8千円とした。例えば、東京のマンションの平均価格である約3千万円の物件を売却した場合、仲介手数料は通常の約半額となる。

また、売り手と買い手の双方から仲介手数料を得る「両手仲介」が当たり前の業界において、「両手仲介は利益相反のリスクがある。最高値の買い手を見つけて売り手の利益を最大化するには片手でやるべき」(吉田紘祐・マンションマーケット社長)として、売り手の片手仲介に特化した。

その他、賃貸仲介の分野では、人工知能技術などを使って仲介業務の完全自動化を図るイタンジのような企業も台頭しており、まさしく百花繚乱といった状況だ(上のインタビュー参照)。

かつてネット証券の台頭で株式取引手数料の値下げ競争が加速したが、不動産仲介手数料でも同様のことが起きる可能性が高い。

IT技術で価格破壊が進む中、消費者に支持されるサービスを提供できない企業は、厳しい価格競争の波に吞み込まれることになるだろう。

*   *   *   *   *

[INTERVIEW]
人工知能で仲介業務を完全自動化
伊藤 嘉盛氏(イタンジ社長/1984年生、早大院修了)

――御社の特徴は。

伊藤 インターネットによる無店舗型の不動産会社だ。賃貸物件を探しているユーザーが希望条件を入力し、当社はその条件にあった物件情報を提供する。ユーザーがそれらの物件をお気に入りかゴミ箱に振り分けると、その情報を踏まえた物件をさらに紹介する。通常、成約時には家賃1カ月分の仲介手数料がかかるが、当社は無料。かかるのはサービス料金の月額800円のみだ。ユーザーは店舗に来る必要がないので時間も節約できる。物件の内見も現地集合だし、賃貸契約の申し込みも現地もしくはメールで可能だ。

――事業の状況は。

伊藤 今年7月に競合の仲介サービス「ノマド」事業を同業のアセンシャスから譲り受け、10月にサービスを統合する。会員数は8万5千人に拡大する。この内、アクティブな会員、つまり通常の不動産屋でいう来店客数は1カ月に約6千人に上っており、成約数も数百件に達している。5年後には仲介件数でナンバーワンになることを目指している。

――ITは不動産仲介事業をどう変えるのか。

伊藤 従来の不動産仲介業務は非常に非効率だ。IT技術の活用で大きく変える余地がある。

当社では現在、人手を介する業務は、物件に関するユーザーからの問い合わせなど、全体の約半分に上っているが、人工知能技術などを用いて3年以内に完全自動化する。

今までの不動産は「モノ」として消費されたが、スマートキーやスマートホームなどの普及やIoTにより、不動産が様々な「データ」となり不動産仲介業の情報産業化が進む。

データが増えたことで、不動産流通状況のリアルタイム把握や将来の収益予測など、従来はできなかったサービスを提供できるようになる。一方で従来の仲介業務は無人化が進み価格競争が加速するだろう。

   

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