小早川智明氏 氏
東京電力 常務執行役カスタマーサービス・カンパニー・プレジデント
2016年1月号
DEEP [インタビュー]
聞き手/本誌編集人 宮嶋巌
1963年神奈川県生まれ。東工大工卒。88年東電入社。神奈川支店営業部長、法人営業部都市エネルギー部長を経て、15年6月末より現職。法人営業畑の経験が長く、全面自由化される電力小売事業を指揮する。
――電力自由化と同時に他電力に先駆けホールディングカンパニー制に移行しますね。
小早川 16年4月にカスタマーサービス・カンパニーを分社化し、小売電気事業を担当する「東京電力エナジーパートナー」に生まれ変わります。
――電気をどこから買うか、家庭で自由に選べるようになり、非常に厳しい競争が始まります。
小早川 当社の販売電力量の約4割に当たる1千億kWhの独占供給体制が崩れ、限られたパイを奪い合う時代に突入します。
――最大のライバルと目される東京ガスは、電力とガスのセット販売で5年後に首都圏需要の1割獲得を目指すと強気です。
小早川 電力自由化から半年で、ご契約の切替は年換算で100億kWhに達すると見ています。なぜなら、競争相手がそれだけの電源を準備しているからです。が、簡単に「城」を明け渡すわけにはいかない。私たちの役割は極めてシンプルで、営業により売上と利益を伸ばすことです。ところが、旧来の電力マンが営業で稼ぐのは容易ではない。これまでの電力事業には「三つの反省点」があります。第一に営業力がなくともご契約がいただける「地域独占」に胡坐(あぐら)をかいていたこと。第二にかかった原価を回収する仕組みに安住し、市場競争の観点が欠如していたこと。第三に公平性を重んじるあまり最低水準のサービス提供に甘んじてきたことです。
――「圧倒的に営業力がない」と危機感を露(あらわ)にしていますね。
小早川 エリア内は100%供給独占ですから、2千万世帯のお客様を単なる供給先と見なしてきた。これが一番大きな間違いです。社内マインドを一新するため、就任直後に2600人の社員に「貪欲にお客様との接点を持とう」と訴え、お客様を上に置く逆三角形の組織を目指して、E&Gと暮らし&ビジネスサービスの二つの事業本部制を導入し、権限(価格決定権や投資判断)と責任(収益達成)を明確にし、お客様対応のスピードアップを図りました。10月にはHP上で「自由化特設サイト」を開設し、お客様との繋がりを深める「でんき家計簿」の新規会員様へのポイントキャンペーンを実施し、その加入者数が350万口を突破しました。
――異業種との多様なアライアンスにも力を入れていますね。
小早川 WEBサービス、ポイントサービスではリクルート、ロイヤリティ マーケティング、カルチュア・コンビニエンス・クラブと業務提携し、電力・ガスのセット販売ではニチガス、TOKAIホールディングスと手を組みました。電力と通信の共同商品販売ではソフトバンクと提携し、11月にはUSENと音楽配信のセット販売で合意しました。自由化当初はともかく、安易な値引きによる消耗戦は長く続きません。お客様が期待する顧客価値の高いサービスをパッケージ化し、エリアサービスから全国サービスへと羽ばたきます。電力自由化の1年後に都市ガスも自由化が見込まれ、東京ガスだけで約1100万口、約5700億円の新たな市場が出現する。「変化をチャンスに!」を合言葉に競争を勝ち抜きます。