「格安」介護住宅をネタにあざとい錬金術

2016年9月号 DEEP

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6月17日、東海財務局は愛知県岡崎市の地場証券会社「野畑証券」に対し、有価証券の私募の取扱い1カ月間停止とあわせて業務改善命令を出した。証券取引等監視委員会(SESC)による検査の結果、「ナーシングケア債」と称する社債の勧誘に際し、虚偽表示などが見つかったことを受けた措置だが、先細りの弱小証券会社と「下流老人」をターゲットにする怪しい業者が結託して、介護保険制度を食いものにする貧困ビジネスの構図が浮き彫りになった。

「ナーシングケア債」とは診療報酬債権の買い取りを行う「メディケアインベストメント」(以下MCI、東京・丸の内、池川一臣社長)が発行する社債の名称で、残高は今年3月末時点で62億円。このうち59億円を野畑証券が販売しており、MCIと野畑は表裏一体の関係にあるようだ。

野畑は単なる社債にすぎない「ナーシングケア債」について、「元利金の支払いは支払基金等からの支払を源泉とし、現行の医療保険制度に対して日本国政府の公約は大きく安全性も高い」などとリスクを過小評価して、投資家からカネを集めていた。関係者によれば、こうして集めたカネは主に格安高齢者住宅を運営する「エヌ・ビー・ラボ」(以下NBL、横浜市中区)なる業者の事業資金に充てられていたという。

NBLは2011年頃より「エルスリー」のブランドで訪問介護併設型高齢者アパートを次々に開設し、施設数は60カ所、入居者は千名程度とみられる。エルスリーとは「ローコスト、ロープライス、ロングタイム」を意味するらしい。入居一時金はなく、利用料(家賃)も食事など込みで月8~9万円と、従来型施設のほぼ半分だ。ローコストを実現するため「フィリピンで日系人を数十名規模で採用し、日本に送り込んだ」(関係者)ほか、高齢者や障がい者の採用も積極的に進めてきたようだ。その結果、年商は30億円まで伸びているものの、格安のビジネスモデル自体に難があり、「赤字垂れ流しで債務超過状態」と、関係者は打ち明ける。

MCIはNBLが将来手に入れる予定の介護給付費債権のほか、家賃債権まで買い取ることでNBLの赤字を穴埋めしてきたが、野畑はナーシングケア債の裏付け資産に家賃債権が含まれていることを投資家に説明していなかった。さらに、最大3カ月と説明していた将来債権には「10カ月先のものまで含まれていた」という。SESCが強権を発動するのも無理はない。

NBLの創業者・清原晃氏はあのショーンKが所属したコンサル会社「エル・シー・エーホールディングス」(上場廃止)の出身だが、今年2月に代表取締役を辞任。現在はMCI社長の池川氏が代表を兼務しており、両社は事実上一体だ。NBLがいくら赤字を出しても入居老人が集まる限り、国から介護給付費が毎月入ってくる。その債権を先々の分まで投資家に売りつければカネは回ると開き直っていたようだが、今回の処分でカネの流れが止まり、多数の老人が路頭に迷う恐れが出てきた。

池川氏は証券会社出身で年齢は40代前半。「高級車を乗り回し、羽振りがよかった」(知人)。アパート建設は「あるハウスメーカーが一手に引き受け、池川氏は多額のキックバックを得ていた」と勘繰る向きもある。

   

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