2017年1月号 BUSINESS
商店主が投資者に渡した「判決」や「主要財産一覧」
秋田県能代市の商店主が関東や東北の約50人から投資名目で集めた金を返さず、一部行為について埼玉県警が詐欺容疑で捜査を始めたと先月号で伝えたが、その商店主が2015年暮れ、返済を迫る人に驚くべき文書を渡していたことが分かった。
秋田簡易裁判所の判決を装った、ニセの判決文だ。
文書は、左肩に「事件番号平成27年(ハ)第441号預託金請求事件」とあり、次の行の真ん中に「判決」とある。続いて、この文書の宛先として件(くだん)の商店主の名前があり、文書の作成者として、秋田簡易裁判所の書記官の名前がある。そこには秋田簡裁の公印らしき印鑑があり、電話とファクスの番号もある。
続く本文には、表題として「預託金等請求の訴」とあり、預託金の価格は2300万円であるとの記述がある。そして、「上記の件について平成27年12月28日をもって原告○○○(原文は商店主の名)へ支払うこととする」と書かれている。
「判決」にはもう1枚「書類送付のご案内」という文書が付いている。宛先は商店主で、送付者の欄には、福島県の法律事務所の名前、住所、電話番号、FAX番号と弁護士二人の名前が記され、二人の名前の横にはそれぞれ印鑑がある。
一見すると、商店主は、秋田簡裁であった預託金請求訴訟に勝ち、年末に2300万円を受け取れる、と読める。文書を渡された投資者も「年の暮れにはお金が入るから、そうしたら返済する」という意味だと受け止めたという。
ところが、文書をよく見ると、判決日は「平成27年12月23日」。なんと、天皇誕生日になっている。いくら何でもこの日に判決を出す裁判所はないだろうと関係者があわてて確認すると、電話番号などは正しいが、事件番号は架空で、そんな訴訟は他の裁判所にも存在しないことが判明した。
本誌が秋田地裁総務課に問い合わせると「警察に告発している案件はあるが、この件かどうかも含め中身については回答できない」との返事だった。判決偽造という異例の事態に、すでに秋田県警に告発した模様だ。
実はこの商店主の逸脱行為はこれにとどまらない。
15年11月には投資者に「主要財産一覧」という文書を送っている。そこには、財産は全部で5億1412万4841円あると記され、「請求事件については平成27年10月28日から払出履行を予定しており返済能力を欠くものではないことを証明する」と書かれてある。
文書の作成者の欄には、「判決」を商店主に送付したことにされた法律事務所とその代表の弁護士の名前がある。
「判決」も「主要財産一覧」も、返済を迫る投資者に対し、これだけ金があるぞと安心させ、返済を先送りするための「見せ金ペーパー」の可能性がある。
文面上、「判決」の送付者で、「主要財産一覧」の作成者になっている福島県の法律事務所は、本誌の取材に「商店主から受任した別の民事訴訟についてやりとりした書類が切り貼りされたようだ。渡した書類と印鑑の角度が同じだった。主要財産一覧は作ったことはない。警察の捜査に協力している」と答えた。
それにしても、裁判所の判決まで偽造するとは。